シュガーとアップル



伯爵は明らかな疑いの目もってハンナを見つめる。

沈黙の間が心臓に悪い。変な汗が出てきそうだ。


「ふうん……、本当にそう?」

「本当です」

「本当に?」

「……ほんとです」

「そう。………君はあまり嘘をつくのが上手ではないな」


思わず伯爵を見ると、目が合った彼は何故か楽しそうに笑っていた。

いたずらっぽく口の端を上げ、ハンナをからかって楽しんでいるのがわかる。


「わざわざ離れた下町からこの街に出向いてくるのは、よっぽど欲しいものがあったからだろう。違うかい?」

「う………」


図星だ。

ハンナは顔を赤らめながら仕方なくこくりと頷く。

恥ずかしい。やっぱり嘘だと簡単に見抜かれ、確信をつく推測まで言われてしまった。

伯爵は素直に頷いたハンナを見て、面白そうにまた笑う。

いつも見ていた優美な笑みではなく、意外にも幼さが滲んだあどけない笑顔を浮かべる伯爵。

(こんなお顔もされるんだ……)

初めて見る伯爵の一面がとても新鮮だった。



「どうして入らずに見ていたの?」

「…大した理由ではないのですが…」


伯爵の問いかけにどう答えようかハンナは迷った。
自分の姿を力なく見下ろす。


「私のような娘には、こんな綺麗な店はとても場違いで」

「場違い? どうして。どこがそう思うんだい」

「身なりから身分まで、全てです。こんな姿で商店街を歩くのさえ恥ずかしく思えて…」


伯爵は何度か目を瞬かせ、ハンナの姿を上から下へ流し見る。


「…私には何が恥ずかしいのか、わからないな」

「…………」


(私のことを気遣って言ってくださってるんだ…、どこまでも優しい方)


でも今はその気遣いがハンナには切なかった。


ハンナと同じ身分である市民たちでさえ、流行を追った服を着て歩いているのだ。

ハンナの姿はどう見ても地味すぎる。

市民から見てそうならば、伯爵のような貴族にはさらにみすぼらしく映ることだろう。


どうせ会うのであれば、もっと綺麗な服を着て伯爵にお会いしたかった。

こんな目立たない色の服ではなくて、もっとカラフルで明るいワンピースならよかったのに。

でも考えたところでもう遅いし、自分はそんな服は持っていないのだ。

< 16 / 28 >

この作品をシェア

pagetop