シュガーとアップル
ハンナが俯いて黙っていると、頭上で伯爵がため息をつく。
呆れたような嘆息に、ハンナは心が締め付けられた。申し訳なさで胸がいっぱいになる。
(私のせいで伯爵さまを困らせてしまっている)
「君は自分のことを低く見過ぎているね…。たしかに今流行りの服装ではないが、全員が流行のものを着てそれが似合うとは限らないんじゃないかな」
けれど伯爵はハンナの予想とは異なった事を言った。
思わず顔を上げると、澄んだ海の瞳と目が合う。
まるで慈しむ者に向けられるような優しく静かな視線。
「私は君にそのワンピースはとても似合っていると思う。落ち着いていて、上品で、飾らない感じが君の人柄を表している。無理に背伸びをして流行物ばかりをつめ込んだお嬢様方より、目立ちはしないが、自分に合った服を着て堂々としている方が、私は好きだよ」
ハンナは自分のワンピースを見下ろした。
「そのワンピースは、君の趣味で買ったものだろう?」
「…はい、お恥ずかしいですが、一目見て気に入ってしまって、つい買ってしまったんです」
伯爵は満足そうに頷いた。
「うん。君はやはりセンスがいい」
視界を横切る女性たちにハンナは目を向けた。
豊かな色彩のドレス。
華やかで可愛くて、キラキラしている。ハンナにはやはり彼女たちの姿は憧れだった。
それなのに伯爵は、あんなに美しい女性たちを前にしながら、こんな冴えない自分もいいと言ってくれるのだろうか…。
「……ありがとうございます…」
伯爵は少し身をかがめ、ハンナの顔を覗き込んだ。
突然美しい顔が目の前に迫り、ハンナは、はっと息をつめた。
「大丈夫?」
「えっ、な、何がでしょうか」
「いや、なんだか声が震えていたから、もしかしたら泣かせてしまったかと思ってね」
「そんな、とんでもありません! 泣いてません」
たしかに少し泣きそうにはなったけれど。
伯爵の言葉があまりにも優しくてつい感動してしまったのだ。
「そうか。よかった」
そう言って安心したように笑う伯爵。
そのほっとした顔が、ハンナの鼓動を再びせわしなくする。