シュガーとアップル
目の真横に伯爵の手がかすめ、ハンナはぴしりと動きを止める。
伯爵は少し身を引きながら、眉を寄せて真剣に商品とハンナを見比べる。まるで何かの審査を受けている気分だ。
「……うん。やっぱり君は赤が似合う。今日のベージュのワンピースにもよく映えるな」
「………!」
伯爵が手にとってあてたもの。それはリボンだった。
ハンナが今日ここまでやってきた目的の赤いリボンだ。
(まさか伯爵さまの買いたいものって…..)
「どうしたの? もしかしてこの色は気に入らない? ちょっと暗すぎるか。赤といってもたくさん種類があって迷うね」
伯爵は首をかしげながら言う。
「あ、あの! 伯爵さまの買いたいものとは……このリボン、なんですか…?」
ハンナはおどおどした口調でやっと言葉を発した。
「そうだよ。私から君へのプレゼント」
「……!」
“プレゼント”。
強烈な響きのワードに目が回りそうになる。
今まで身なりのことには頓着してこなかった。
パンの修行だけに精神を注いできたせいで、自分の格好にあれこれ意見してくれるような服に詳しい知人もいなければ、他愛もない会話をするような同年代の友達もいない。
誕生日にはマルレーネやヘンドリックがケーキを作ってくれたりするが、何か特別な日以外で誰かがプレゼントをくれることなどなかった。ましてや異性からの贈り物など。