シュガーとアップル





「520ファラン(※円)になります」


いつものことながら、伯爵が手袋も何もしていない手を差し出したので、ハンナは自分の両手を水をすくう形にして出した。

ぴったり520ファラン分のコインがハンナの手の上にチャリッと置かれる。

触れるか触れないかの手の距離にまた心臓を慌ただしくさせながらレジを打った。



「今日は、いつもの赤いリボンをしていないんだね」


突然降ってきた言葉に、ハンナは驚く。


「へ…」


顔を上げ、日の光のように注がれる柔らかな眼差しと目が合った。



「結ぶ髪留めが、いつもは赤いリボンだったと思うんだが」


「は……いえ、はい、その…いつものリボンは糸がほぐれてしまって…」



緊張と恐れ多さのあまり、声が震えてしまう。

まさか伯爵が、自分のそんなところまで見ていたとは驚いた。

ハンナの焦げ茶色の長い髪は、働くときはいつも首の後ろで1つに縛っている。

赤いリボンの髪留めは確かに毎日つけていたほどお気に入りだった。けれど最近糸が崩れ、古ぼったく汚れてしまったので変えたのだ。今は紫のリボンをつけている。


伯爵はなにか考えるように口元に手を当て、ハンナをじっと見つめる。


「…紫も良い色だけど、君には赤の方がとても似合うね。髪の色のせいもあるかもしれないが、君からはいつも林檎の香りがするから」



伯爵から飛び出る予想外の言葉に、ハンナは再び俯いて、それこそりんごのように耳まで真っ赤になった。


「そ、そんな、もったいないお言葉です…お客様」


(どうしよう、信じられない。今までこんなに伯爵さまにお声をかけていただいたことなんかなかったのに、今日は普通に常連のお客さんと同じような会話をしてる…!)

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