敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「まだかかりそうですか?手伝いましょうか」
「いえ、大丈夫です。もうすぐ終わります」
「でも神田さんは今日は飲み会でしょう?」
「え、何でご存じなんですか?」
「先日あなたが誘われている場にたまたま通りかかって聞こえてしまったんですよ」
「あ、ああ、すみません、私達声が大きくて……」
何だか変な感じだ。室長とこうして雑談するだなんてたぶん初めてだ。
昨年の春、室長が来てから秘書室全体での親睦会という名の飲み会はあったけど、室長は参加していない。
それに秘書室の飲み会は月に何度かあるけれど、だいたい合コンなのでそもそも室長に声はかけないし。
「あの、室長も今日は遅いんですよね?電話会議があるって聞いてますし……」
「ああ、それに関しては予定が変更されたので私も今日はそろそろ帰る予定ですよ」
「そ、そうなんですか。じゃあ私も早く帰ってっていうことですよね。すみません、すぐ帰ります」
「いえ、残業は確かに推奨しませんが、あなたの責任感の強さも知っていますので、残りの仕事を投げ出して帰れとは言えませんよ」
そう話す鉄仮面のはずの室長の表情が少し和らいだように見えたのは気のせいだろうか。