敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
7章 砂上の恋
室長のお宅へ行ってから、お互いにオフィスで顔を合わせるも忙しくてまともに話せない日が続いている。
ちょっと寂しいな、とは思うけど、すれ違いざまに一瞬笑ってくれたりするので誰かに見られてないかとヒヤヒヤしたり、その笑顔にドキドキさせられている。
私にはもう室長を好きにならない選択肢はない。
仕事では無愛想だけど尊敬できる上司。
でもプライベートではまるで別人のよう。
『次は、逃がさないからな?』
今も逃がさないで、と喉まで出かかった。
帰り際にあんなことを言われた方は夜も眠れないとわかっているんだろうか。
私のことを困らせるのが好きだと言って、さんざん振り回したり。
そうかと思えば自分の過去を語って誰も知らない心の内をさらけ出して。
私が特別な存在だと言って、誰にも見せない顔を見せ、私を優越感にどっぷりと浸らせて懐柔している。
押したり引いたり、無意識なのか計算なのか未だにわからないけれど。
私は、室長を好きになってしまった。
「……え、なに……?」
一人オフィスで事務仕事に没頭していると、執務室の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
何だろうと耳をすますと何やらボソボソと話し声が聞こえてきて。
「佐伯さん……!」
誰よりも敏感に反応してしまうこの声は室長だ。
執務室の辺りから聞こえたけれど、何やら切迫したような声音に何かあったのかと気になってしまった。