敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
けれど室長はそんな私を見てクスッと笑い、私が指差していた方向へ顔を向けた。
最近の室長はこの『クスッと笑い』が多くなっている気がするけど、私はこの笑い方が好きだったりする。
何でも許してくれそうな、大人の包容力というか、そんな余裕を感じてほっとするのだ。
「……俺も初めて乗った。一生乗ることなんてないと思ってたのに人生はわからないものだな」
「ふふ、私も初めて乗るのが室長とだなんて想像もしてませんでした」
無表情で何を考えてるのかわからなくて。
私生活なんてあるのかと思われてるような室長と、こうして一緒にプライベートを過ごすだなんて想像できるはずがなかった。
「俺も、まさか自分が観覧車に乗ってデートするだなんて思ってなかったな……、っと……」
「ひゃっ……」
「デートならデートらしい距離がいいかと思って。向かい合わせじゃ遠いだろ」
向かい側に座っていた室長が突然立ち上がり、私の隣に腰を下ろす。
よそよそしい距離から親しい距離へと変わり、室長の香りが濃くなって胸を騒がせる。
「観覧車って、キスする場所なんだろ?」
「え?」
すぐにでもキスできそうなぐらいの距離。
そんなことを言われると端正な顔立ちの中の形のよい唇に自然と目が向いてしまう。