敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「ご、ご存じだったんですか……?」
おそるおそるこう訊くと、室長は口の端を上げて当然だとでも言いたげに笑う。
「給湯室の話し声ってエレベーターホールまで結構聞こえるの知ってる?」
「知らないです……」
知らないのも無理はない。
だって私は給湯室で『話す側』の人間だから。
「確かにその通りだと思うから異論はないが」
「ないんですか?」
「影で言われているだけだし、たとえ面と向かって言われても気にはならない」
あっさりとそう言い放ち、室長はまた外の景色へ目を向ける。
「あの、でもみんな室長のこと嫌ってませんよ? むしろ尊敬してます」
阿川さんも室長のことをあれこれ言うけど、本気で嫌っているわけではない。それに阿川さんの場合は、仕事が出来る者同士の、反りが合わない感じなだけというか。
「仕事に支障が無ければ、俺は嫌われていても構わない。君にだけ嫌われなきゃいいよ」
「え……」
「ああ、もうすぐ天辺じゃないか?」
さらっと、私に嫌われなきゃいいとかものすごく気になることを言われたけど、当の本人はこのゴンドラがどの位置にあるのかということに興味津々らしい。