敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

静かなゴンドラの中に響く、重ねた唇から漏れる音が羞恥を誘い、長く繊細な指先が私の首筋をなぞるように触れるとゾクッとした感覚が身体を駆け上がる。

薄く目を開けると、天辺を過ぎたと思える景色が視界の端にちらりと映り、蕩けるような甘い時間の終焉が訪れる。


「……残念。もう下がってるな。一応もう一度提案するけど、会食やめない?」

「や、やめませんよ……」


生々しい感触の余韻に襲われ中の私は息も絶え絶えなのに、冗談が言えるほど余裕のある室長とではどちらに分があるのかは明らかだった。

恋愛の経験はなくても、数多くの女性と関係を築いてきた『実績』がキスによく表れている。

……その点は、少し複雑だったりもするけれど。


「本当に君は頑なに拒否するよね。キスしてる時はおとなしくしてるのに」


唇に付いた私のリップを指で拭いながらそう話す姿に、まだときめくのかと自分でも呆れるほど胸が高鳴る。

ゴンドラを降りて、少し肌寒い風に当たっても火照った顔は中々冷めてくれそうになかった。

室長は頬を染めたままの私を見て満足そうに笑い、そうするのが自然だとでもいうように手を繋ぐ。

キスをするのももちろん胸がときめいて仕方ないけど、こんなことしそうにない室長が自ら手を繋いでくることが私には何より甘いご褒美に思えた。
< 193 / 282 >

この作品をシェア

pagetop