敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
8章 引き際
結局、観覧車に乗った以外はテーマパークをちらっと横目に眺めただけで時間が尽きてしまった。
再びタクシーに乗り込み、昵懇の間柄だという会長との会食の場へと向かう。
「今日の会食だけど、会長は本当に気さくで気を使われることが大嫌いな方なんだ。だから君も必要以上にペコペコしなくていいから」
室長はネクタイを直しながら、すっかり仕事モードの顔つきでそう告げる。
「わかりました。あの、室長はお付きあいは長いんですか?」
「そうだな……初めて会ったのは俺が高校生の時だったな。親父が俺を堂々と表に出すようになった頃に会わされたって感じだな」
そう言って感慨深げに話す室長。
話の合間合間に室長の苦いであろう過去が垣間見える気がした。
「だが会長のお孫さんに会うのはかなり久しぶりだ。だいたい会長とも最後に会ったのは1年以上前だからな」
「あの、お孫さんって女性……ですか?」
ふと、お連れの方の性別を聞いてなかったと思い訊ねると、室長は口の端を上げる嫌な笑い方をして私へ目を向ける。