敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「気になる?」
「まあ……。気にならないと言えば嘘になりますかね」
こんなこと訊くまでもなくわかっているだろうに。本当に室長は私にそれを言わせたいだけなのだ。
でも、私もこういうSっ気のある室長を嫌いじゃないから困りものだけど。
「お孫さんは男だよ。歳はたぶん君と同じぐらいかな」
「そうなんですか」
「玉の輿狙わないの? それとももう探すのやめた?」
室長は車窓の景色をぼんやり眺めている風で、こちらへ目を向けるでもなくそう訊ねてきた。
まただ。
本当にこの人は、私が室長しか見えてないことをもう知っているはずなのに、どうしても言わせようとする。
「もう探してません。だって私『保険』に入ってますから」
だけど私も室長がこんなことを言わせたいのは、私と同じ気持ちだからだと思いたくて、躊躇わずにこう答えた。
ちょっとひねくれた可愛いげのない言い方になったのは室長のせいだ。
「……そうか。解約しなくてよかったな」
少し斜に構え、そんなに俺が好きかとでも言いたげにちらっと流し目を送る室長の余裕の笑みが憎らしく思えたけど、結局好きになった方が負けなのだ。