敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「ああ。母方の実家もそれなりに名のある精密機械メーカーなんだ。だけど今は業績の悪化で外資の傘下に置かれていて、今の社長は母達の兄、つまり俺達の叔父なんだが、落ちぶれたのは資金援助をしなかった親父のせいだと一方的に恨んでる」
「恨んでる、といっても別会社ですよね?」
「まあそうなるが。親父が叔父をうちの役員として迎えてるんだ。母方の実家に多大な迷惑をかけた謝罪として、ね」
「謝罪……ですか……」
「親父の自業自得だよ。妻の妹を愛人にして子供を作ったんだ。母方の実家はそれは大騒ぎしたらしい。俺の母親も未だに実家からは縁を切られた状態だからな」
グラスを傾け残りわずかのお酒を飲み干した室長は自嘲気味に笑いながらそう話すけど。
私は受け止めるにはあまりにも重い内容に、ただ黙って聞くことしかできなかった。
「まあ、そういう訳もあって俺達が兄弟であることを知る人間は最小限に抑えておきたいんだ。で、君の希望は了解したけど確約は出来ない。だからもしもに備えて保険をつけたいと思うんだ」
「保険?どういう意味です?」
「この先、もしも暁斗が失脚したら最悪君は秘書室から異動になるかもしれない。秘書はバカでも若い方がいいとかいう奴もいるしね」
「……確かに……」
「だから、保険。万が一秘書が続けられなくなっても、君が必ず玉の輿に乗るっていう保険をかけるんだ」
そう言って室長は意味ありげに口の端を上げて笑うけど、私は玉の輿に乗る保険の意味が全くわからず困惑中。
そんな都合のいい保険があるならぜひお願いしたいけどそんなものあるはずないし。