敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

「遅い」

「えっ、わわっ!」


おそるおそるスマホを受け取ろうと伸ばしかけていた腕が、突然ぐいっと力強く引かれる。

ヒールを履いた足では踏ん張りがきかず、気付けば私は執務机の椅子に座っている室長の膝の上にぽすんと収められてしまった。


「なっ、なっ、なにして……」

「おい、暴れるな」

「あっ、暴れるなって言っても無理ですよ!」

「抱くのは我慢してやってるんだからこれぐらいで文句言うな」

「が、我慢って……、っ……!」


するっと腰に手が回され、ゾクゾクとした甘い痺れが体を巡る。

私はすっかり身を任せる体勢になっていて、室長の香水のいい香りと、体温が徐々に伝わり胸の鼓動を否応なしに速めていく。


「どうした、固まってるのか?」

「あ、当たり前じゃないですか!こ、こんなこと室長がするなんて思ってないですし、そ、それに……」

「……それに何?」

「ち、近いんですよ……」

「昨日キスした時の方が近いんじゃないか?」

「そっ、そうかもしれないですけど……!今は膝の上だし……!」

「ふ……、早く降りたいならさっさと登録するんだな」


そう言って室長はまた口の端を上げて意地悪そうに笑うけど。

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