敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

「いつだったか、君が翻訳したスピーチが好評で専務が上機嫌で君を褒めちぎっている場に出くわした。褒められている時は人形みたいな笑顔だったのに、専務がいなくなり、一人になった君は嬉しくて仕方がないって感じで飛び跳ねて喜んでた」

「え……、うそ、見てたんですか……?」

「それまでは笑顔が硬い子だな、と思ってたのにあれで一変した。上手く笑えない俺と似たタイプなのかと気にもするようになった」


顔は恥ずかしくて見えないけれど、淡々と話す声がひどく耳に心地いい。

すぐそばで、室長の香りに包まれながら体温だけじゃなく息遣いまでもが感じられる。
まるで全身で室長を感じているような、そんな錯覚に陥って、身体の奥から蕩けてしまいそう。


「それ、昨日言って欲しかったです。絶対おかしいってずっと思ってました」

「こんな話して勘違いされても困るだろう?室長は前から私のこと好きだったんだ、ってね」

「そ、そんなこと思いませんよ。たぶん……」

「はは、素直だな。君のいいところだ。まあ今は君は俺のお気に入りのオモチャ、ってところかな」

「はい?」

「からかい甲斐があるって言えばいいのか?反応が分かりやすくていい」

「……それって私は喜ぶところなんですかね……」

「さあ。君次第じゃないかな。まあ所詮俺は保険だし、君が俺よりいい男を見つけたら保険も無効な訳だからね」


そう言って室長は不敵に笑い、その顔からは自信が溢れているのが目に見えるようだ。
そう、俺よりいい男なんているわけない、みたいな。

いや、確かに室長より上とかほぼ無理でしょうね、とは思うけども。

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