God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
待ち合わせは、ショッピング・モールの中のスタバで。
クリスマス一色の店内を横切って、俺達は約束の5分遅れで到着した。
店内を窺うと2人はもう居て、隣り合って仲良くメニューを覗いている。
「あたし達、要る?」
疑って掛かる右川に、俺も激しく同意したくなった。
おーおー、仲良く会話が弾んでいるじゃないか。
その証拠に、剣持の大声が店の外まで聞こえてくる。
剣持と目が合った。
「じゃ」
とばかりに向きを変えると「おいおい!」と大声で引きとめられる。
「俺ら、要る?」
右川と同じ台詞を、俺は繰り返した。「頼むって、センセイ!ほらぁ!」と、剣持に引っ張られて、仕方なく席に着いた。
「俺らも今来たばっかで」と言う事で、注文という段取りになり、「オラ、金出しな」と右川にカツアゲ(?)されて、俺は自分の分を渡した。
お釣りが戻って来る事は、はなから期待していない。
右川と剣持が2人でレジに向かった。
成り行き上、俺と折山が取り残される。
その折山という女子を見ていると……どこかで見た事のある気がした。
もちろん右川のグループに居る訳だから、見覚えぐらいはあって当然なのだが。その割には頭に残っていない。なのに、何か重大な場面で見覚えがあるような気がするから不思議だ。
右川と剣持が戻って来て「なんか違う」と座席を右川が勝手に決める。
俺と右川が、向かい合わせ。
剣持と折山も、向かい合わせ。
元々座っていた場所を、右川に言われて、剣持らが取って替わった。
右川に言わせると、「沢村は今から、デカい壁だからね」らしい。
聞けば、その向こうに他校の生徒がいて、「ちょっとイケてるから、折山ちゃんが乗り変えたらマズイじゃん」と来る。
「それ、おまえだろ!」と、剣持が大きな声でさっそく飛んだ。
「おまえ言うな!」
我体は小さくとも、声を張り上げたら、そこは右川も負けてない。
「いいから、どっちも静かにしろよ」
周囲の目が気になる。俺はひたすら恥ずかしい。
2人は何だか、勝手に色々と買ってきた。
折山は、剣持から渡されたコーヒーを大人しく口にして。その風景にどこか見覚えが……やっぱりその程度だった。話し込んだ記憶は無い。
「何だよ!やけに静かじゃん」
「普通の人間は、これが普通だろ」と、剣持の大声を当てこすったついでに、「あんまり話した事無いよね」と思い切って折山に投げかけた。
「沢村くんには前に1度、修学旅行でちょっとだけ。話した、かな」
えー……。
修学旅行。色々あり過ぎてあり過ぎて、1女子と話したぐらいでは記憶に残らないのも無理は無い。
「あの時、私、風邪薬を持ってたから」と言われて、そこで気づいた。
「ああ!そうそう」
あの日。右川が重森を相手に大立ち回りを演じて説教にもつれ込んだ部屋の。
あの夜、俺がくしゃみをした所に薬が出てきて……よく覚えている。
あれがそうだったか。
そう言えば。
「クスリだぁ!おまえ常習か!」
嬉しそうに声を弾ませた剣持だったが、この場にその発言はそぐわないだろう。折山はもちろん、右川ですら引いている。意識する女子の手前、かなりテンションが上がっていると見た。声がいつにも増して非常にデカい。
「静かにしろって」
俺は我慢してやる。右川はあからさまに目と耳を塞いでいる。その隣で、それを恥ずかしがる様子もなく、ニコニコときいているのが折山だった。
俺はじっと折山を見ながら、修学旅行のその時を思い浮かべる。
眠くなるかもしれないと言いながら、俺を心配して薬を渡してくれた。
優しい子なんだろう。見た目からして、そんな感じだった。
どうして右川と超仲好いのか、それが謎だ。
右川が優しくないとは言わないが、折山から見たら強すぎないだろうか。
その折山だがその頃に比べて……ちょっと太った?
だが、それは言ってはいけないだろう。折山だけが、目の前のお菓子に全然手をつけていない。かなり気にしていると、折山にはそんな雰囲気があった。
右川だけが他人の分まで手を出して、ガツガツと喰らっている。
そのうち、ショートサイズの残り少ないコーヒーの中、スコーンのかけらを勢いよくドボンと沈めた。蓋を閉めて、ガサガサと振る。
「サクサク、しっとり、スコーンの食感は自由自在さ♪」
2人はドン引きだった。(他の客は2度見&3度見。)
見慣れていた俺だけが冷静で、うるさいとも止めろとも言わない。
多分それもドン引きの原因かもしれない。
それからも騒々しく、まったりと、会話はうるさくも和やかに続いた。
程なくして、
「あたしらもう居なくていんじゃね?」と右川がこっそり伝えてくる。
「そうだな」
来たときから、結果は見えていた。
自分たちは自分たちで行きたい所に行こう、という欲が見え見えのような気もしたが、そろそろ出るか、と立ち上がろうとしたその時。
「沢村?」
後ろから、その声と同時に肩を叩かれた。
振り返ると、それは……森畑。
俺はずっと半分背中を向けていたから気付かなかったけど。他校のイケてるやつ。制服姿は初めて見た。髪型も、塾で会う時よりはいくぶんシャープに整えている。確かに、ちゃんとイケてる18歳に見えた。
ぼんやり眺めている周りに向けて、「森畑。塾で一緒なんだ」と紹介。
そこからどう発展させればいいのか、正直何も思い描けないまま、微妙な空気が流れた。
森畑は、側の椅子を手繰り寄せて、俺の隣にドカッと陣取る。
ちょうど店に入って来た他校の女子が「あ、森畑ぁ」と手を振る所を心地よく受け入れて後、右川と折山を舐めるように見た。
俺に向けて、どっち?という目線を送る。
どう言ったらいいものか迷っていると、突然、右川が立ちあがった。
「じゃ、次行ってみよ~♪」
右川は、座ったばかりの森畑を明らかに無視した。
付属とは色々あったから制服を見ただけでアレルギーが出たのかもしれない。とはいえ、彼氏の知り合いに対してそれはないだろう。
森畑は俺に向かって唖然と、そして右川には明らかに顔をしかめている。
「悪い」と、俺は詫びた。
ちょっと別の事情があってさ……こっそり呟いたような。無いような。
何となく森畑は察してくれたようで(?)俺を見て1度頷き、剣持と折山には愛想の良い会釈を与えた。
「じゃ、またな」と、仲間の群れに戻っていく。
剣持は、店の出口に向かう右川を追い掛けた。
見ていると、「今日は、俺らの事だから」と、金を渡している。最初俺が右川に金を渡した時、それを遮ってまで、強引に捻じ込む事はしなかった。
それは、こちらの顔を潰さないという気遣いだったように思う。
剣持はそういう所のあるヤツだ。
店にいる間中、ずっと気になっていただろう。
楽しい話に没頭していると見せて最後まで何も言わず、帰り際になってそっと気使うその姿は、まさに早くも次期社長だな。
こういう時、仲間内では「金持ってんだからいいじゃん」と安易に甘えるような図々しいヤツも居て、そこは剣持にとっては悩ましい所かもしれない。
右川は「いいよ」と金を戻した。
「そうだよ、いいよ」と同調した俺をも制して、剣持は、「いいんだって」と両手で握らせてくる。
「今日は、ありがとな」
剣持から猫パンチを無邪気に喰らった右川はちょっとフラつきながら、「う、さんきゅ。ゴチ」と野暮にお礼を言って、そのお金をサイフに収めた。
スタバの出口でゴミを捨てていると、「意外と気遣うやつなんだね」と、右川が囁く。
「そうだよ」
ざまみろとは思わなかった。何だか誇らしい気持ちになる。折角だから、剣持からもらった金は、これからの俺達に有意義に使わせてもらう事にしよう。
「ね、これからどうする?」
「どっか行くか」
吹き抜けのツリーの向こう側、窓から外を眺めた。
お互いに塾が休みでよかった。そして、晴れていて良かった。曇っていたらこの時間、とっくに薄暗くなりかけている。今日はまだ一緒に居られそうだ。
「その前に、俺ちょっと森畑に……言ってくる」
「何あいつ。ちょー馴れ馴れしーじゃん」
その頬をキュッとつまんだら、「うぐ」と呻いて、俺を上睨みした。
男子だけに厳しいその態度。初対面3秒ぐらい、どうにか我慢しろ。
右川にも言いたい事は山ほどあるが……まぁ、いい。
今日はケンカはやめよう。
右川が、後のゴミを引き受けた。
俺は森畑を探して店を見渡す。
そこに、藤谷が現れた。
クリスマス一色の店内を横切って、俺達は約束の5分遅れで到着した。
店内を窺うと2人はもう居て、隣り合って仲良くメニューを覗いている。
「あたし達、要る?」
疑って掛かる右川に、俺も激しく同意したくなった。
おーおー、仲良く会話が弾んでいるじゃないか。
その証拠に、剣持の大声が店の外まで聞こえてくる。
剣持と目が合った。
「じゃ」
とばかりに向きを変えると「おいおい!」と大声で引きとめられる。
「俺ら、要る?」
右川と同じ台詞を、俺は繰り返した。「頼むって、センセイ!ほらぁ!」と、剣持に引っ張られて、仕方なく席に着いた。
「俺らも今来たばっかで」と言う事で、注文という段取りになり、「オラ、金出しな」と右川にカツアゲ(?)されて、俺は自分の分を渡した。
お釣りが戻って来る事は、はなから期待していない。
右川と剣持が2人でレジに向かった。
成り行き上、俺と折山が取り残される。
その折山という女子を見ていると……どこかで見た事のある気がした。
もちろん右川のグループに居る訳だから、見覚えぐらいはあって当然なのだが。その割には頭に残っていない。なのに、何か重大な場面で見覚えがあるような気がするから不思議だ。
右川と剣持が戻って来て「なんか違う」と座席を右川が勝手に決める。
俺と右川が、向かい合わせ。
剣持と折山も、向かい合わせ。
元々座っていた場所を、右川に言われて、剣持らが取って替わった。
右川に言わせると、「沢村は今から、デカい壁だからね」らしい。
聞けば、その向こうに他校の生徒がいて、「ちょっとイケてるから、折山ちゃんが乗り変えたらマズイじゃん」と来る。
「それ、おまえだろ!」と、剣持が大きな声でさっそく飛んだ。
「おまえ言うな!」
我体は小さくとも、声を張り上げたら、そこは右川も負けてない。
「いいから、どっちも静かにしろよ」
周囲の目が気になる。俺はひたすら恥ずかしい。
2人は何だか、勝手に色々と買ってきた。
折山は、剣持から渡されたコーヒーを大人しく口にして。その風景にどこか見覚えが……やっぱりその程度だった。話し込んだ記憶は無い。
「何だよ!やけに静かじゃん」
「普通の人間は、これが普通だろ」と、剣持の大声を当てこすったついでに、「あんまり話した事無いよね」と思い切って折山に投げかけた。
「沢村くんには前に1度、修学旅行でちょっとだけ。話した、かな」
えー……。
修学旅行。色々あり過ぎてあり過ぎて、1女子と話したぐらいでは記憶に残らないのも無理は無い。
「あの時、私、風邪薬を持ってたから」と言われて、そこで気づいた。
「ああ!そうそう」
あの日。右川が重森を相手に大立ち回りを演じて説教にもつれ込んだ部屋の。
あの夜、俺がくしゃみをした所に薬が出てきて……よく覚えている。
あれがそうだったか。
そう言えば。
「クスリだぁ!おまえ常習か!」
嬉しそうに声を弾ませた剣持だったが、この場にその発言はそぐわないだろう。折山はもちろん、右川ですら引いている。意識する女子の手前、かなりテンションが上がっていると見た。声がいつにも増して非常にデカい。
「静かにしろって」
俺は我慢してやる。右川はあからさまに目と耳を塞いでいる。その隣で、それを恥ずかしがる様子もなく、ニコニコときいているのが折山だった。
俺はじっと折山を見ながら、修学旅行のその時を思い浮かべる。
眠くなるかもしれないと言いながら、俺を心配して薬を渡してくれた。
優しい子なんだろう。見た目からして、そんな感じだった。
どうして右川と超仲好いのか、それが謎だ。
右川が優しくないとは言わないが、折山から見たら強すぎないだろうか。
その折山だがその頃に比べて……ちょっと太った?
だが、それは言ってはいけないだろう。折山だけが、目の前のお菓子に全然手をつけていない。かなり気にしていると、折山にはそんな雰囲気があった。
右川だけが他人の分まで手を出して、ガツガツと喰らっている。
そのうち、ショートサイズの残り少ないコーヒーの中、スコーンのかけらを勢いよくドボンと沈めた。蓋を閉めて、ガサガサと振る。
「サクサク、しっとり、スコーンの食感は自由自在さ♪」
2人はドン引きだった。(他の客は2度見&3度見。)
見慣れていた俺だけが冷静で、うるさいとも止めろとも言わない。
多分それもドン引きの原因かもしれない。
それからも騒々しく、まったりと、会話はうるさくも和やかに続いた。
程なくして、
「あたしらもう居なくていんじゃね?」と右川がこっそり伝えてくる。
「そうだな」
来たときから、結果は見えていた。
自分たちは自分たちで行きたい所に行こう、という欲が見え見えのような気もしたが、そろそろ出るか、と立ち上がろうとしたその時。
「沢村?」
後ろから、その声と同時に肩を叩かれた。
振り返ると、それは……森畑。
俺はずっと半分背中を向けていたから気付かなかったけど。他校のイケてるやつ。制服姿は初めて見た。髪型も、塾で会う時よりはいくぶんシャープに整えている。確かに、ちゃんとイケてる18歳に見えた。
ぼんやり眺めている周りに向けて、「森畑。塾で一緒なんだ」と紹介。
そこからどう発展させればいいのか、正直何も思い描けないまま、微妙な空気が流れた。
森畑は、側の椅子を手繰り寄せて、俺の隣にドカッと陣取る。
ちょうど店に入って来た他校の女子が「あ、森畑ぁ」と手を振る所を心地よく受け入れて後、右川と折山を舐めるように見た。
俺に向けて、どっち?という目線を送る。
どう言ったらいいものか迷っていると、突然、右川が立ちあがった。
「じゃ、次行ってみよ~♪」
右川は、座ったばかりの森畑を明らかに無視した。
付属とは色々あったから制服を見ただけでアレルギーが出たのかもしれない。とはいえ、彼氏の知り合いに対してそれはないだろう。
森畑は俺に向かって唖然と、そして右川には明らかに顔をしかめている。
「悪い」と、俺は詫びた。
ちょっと別の事情があってさ……こっそり呟いたような。無いような。
何となく森畑は察してくれたようで(?)俺を見て1度頷き、剣持と折山には愛想の良い会釈を与えた。
「じゃ、またな」と、仲間の群れに戻っていく。
剣持は、店の出口に向かう右川を追い掛けた。
見ていると、「今日は、俺らの事だから」と、金を渡している。最初俺が右川に金を渡した時、それを遮ってまで、強引に捻じ込む事はしなかった。
それは、こちらの顔を潰さないという気遣いだったように思う。
剣持はそういう所のあるヤツだ。
店にいる間中、ずっと気になっていただろう。
楽しい話に没頭していると見せて最後まで何も言わず、帰り際になってそっと気使うその姿は、まさに早くも次期社長だな。
こういう時、仲間内では「金持ってんだからいいじゃん」と安易に甘えるような図々しいヤツも居て、そこは剣持にとっては悩ましい所かもしれない。
右川は「いいよ」と金を戻した。
「そうだよ、いいよ」と同調した俺をも制して、剣持は、「いいんだって」と両手で握らせてくる。
「今日は、ありがとな」
剣持から猫パンチを無邪気に喰らった右川はちょっとフラつきながら、「う、さんきゅ。ゴチ」と野暮にお礼を言って、そのお金をサイフに収めた。
スタバの出口でゴミを捨てていると、「意外と気遣うやつなんだね」と、右川が囁く。
「そうだよ」
ざまみろとは思わなかった。何だか誇らしい気持ちになる。折角だから、剣持からもらった金は、これからの俺達に有意義に使わせてもらう事にしよう。
「ね、これからどうする?」
「どっか行くか」
吹き抜けのツリーの向こう側、窓から外を眺めた。
お互いに塾が休みでよかった。そして、晴れていて良かった。曇っていたらこの時間、とっくに薄暗くなりかけている。今日はまだ一緒に居られそうだ。
「その前に、俺ちょっと森畑に……言ってくる」
「何あいつ。ちょー馴れ馴れしーじゃん」
その頬をキュッとつまんだら、「うぐ」と呻いて、俺を上睨みした。
男子だけに厳しいその態度。初対面3秒ぐらい、どうにか我慢しろ。
右川にも言いたい事は山ほどあるが……まぁ、いい。
今日はケンカはやめよう。
右川が、後のゴミを引き受けた。
俺は森畑を探して店を見渡す。
そこに、藤谷が現れた。