God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
〝Afternoon Tea〟とかいう、そこ。
つまり〝午後のお茶〟という店。
さっきとは属性が違う。
だが、さすがに入るのを躊躇った。それ程、俺には場違いである。
こういうのも女子が好きそうだなと、俺も外から一通り見て回るが、店員と目が合ったら気のせいか笑われたような。気が付くと、いつのまにか手にカップを握っていて……いつのまにか、毒されている。
がちゃん!
……割れてはいない。ゆっくりとカップを棚に戻した。
右川はと見れば、「独り暮らしになったら、こういうのをドンドン買うぞ~」
あれもこれもと燃えている。
店内に飾ってある犬の置物にまで手を伸ばし、その頭を撫でながら、「やっぱ頼りになる相棒も買っとかないとね。お手」と、まるで折山を慰めようと(なのか)必死で気分を持ち上げていた。
「うんうん。そうだね。はいはい」と、折山は苦笑いで手を乗せる。
そうやって適当に聞き流して。
それだ。
そういうノリが、さっき欲しかった。
「折山ちゃん、これとかどう?似合いそう」
店の隅にある衣類を取って、折山に当てた。
「だーかーらーって、伝染っちゃったじゃん。私、もうMサイズは入らないんだよ」
痩せなきゃ……と折山が溜め息をつくと、「折山ちゃんはもともとMだよ。金持ち野郎がSだから相性抜群だね」と大スベりで、またまたカマしている。
「いいなぁ、カズミちゃんはスリムで」
「良くないよっ。おかげで胸が無いよっ」
ドヤ顔で落ち込むな。
大丈夫だ。そうでもない。手のひらサイズは、あった気がする。
そこから不意に隣の店に入った折山は、1つの商品を手に取った。
「バーゲンで安くなってるんだね」と、上に下にじっくり眺める。
「それでも高い。どうしよう。これ1つでバイト代が飛んじゃう」
「そんなの、ねだっちゃえばいいじゃん。金持ち野郎が買ってくれんじゃないの。クリスマスだし」
右川はさっきの藤谷と同じような事を言った。
「私のじゃないよ。剣持くんに何あげたらいいかと思って」
そういう子なんだな、と思った。自分の物じゃなく。
「そうだねー……」と唸った右川は、「金持ちの趣味なんか知らないし。金持ちだから、もう何でも持ってんだろな」と偏見に満ちた自論を展開。
そうでもないぞ。俺ら男子が本当に欲しいものは、意外と形にならないモノばかり……だったりする。
「カズミちゃんは、沢村くんに何をあげるの?クリスマス」
「え?あ、ああ……内緒だよ♪」
「っていうか、おまえ全然考えてないだろ」
ここぞとばかりに、俺はその背後から刺し込んだ。
「おわ。巨人が現れたっ!立体機動だっ!」
徹底的に闘う姿勢で、右川は構えて見せる。
かと思うと、「てゆうか、すっかり忘れてました。沢村先生」と、あっさり認めた。
正直に言えば良いってもんじゃない。それで免れた気でいる。
だから余計にタチが悪い。
「あたし受験で、それ所じゃないからさ♪」
「それを言ったら、みんなそうだろ」
「あたしじゃなくてアキラが言ってんですけど。試験終わるまで、おまえらイチャイチャすんなよって」
「そうかな~?原田は、仲良く勉強しろって言ってくれるけど」
「でしょ?仲良くクリスマスじゃなくて、仲良く勉強♪」
「確かにそれ所じゃねーもんな、キミは!」と凄んで見せると、
「所じゃねーワ!センセイ」と、右川もメンチ切る。
「あの、私、お邪魔かな」と、折山が気を使い始めたので、「「そんな事ない」」と、ここは息の合ったハーモニーを聞かせておいた。
折山が眺めていた腕時計。23000円。……高価っ!
「前にさ、1度だけ沢村にビスケット作った事あったよね」
「あーはいはい」
確かにビスケットを貰ったな。
懐かしく思い出した。あれから1回も作って貰ってないけど。
折山は、「カズミちゃん、そんなの作れたんだ。すごいね」と目を見張る。
「でも、折山ちゃんのチーズケーキの方が全然美味いよ。神だよ」
「折山って、ケーキ屋?」と訊ねると、
「何トボけてんの」と脇腹に一撃が来た。
「金持ち野郎にさ、そういうのってどうかな」
「え?」と、まだ腑に落ちない俺を小突いて、
「だーかーらー、クリスマスにケーキ。お手製の」
俺はその狙いを理解した。「うん。そういうの、あいつも絶対喜ぶと思う」と底上げ、熱烈、協力する。
「そっか。そういうのもあるね。どうしようかなぁ」
折山は打って変わって、悩む様子に明るさを取り戻した。
「折山ちゃん、たくさん作ってあたしにもちょうだい♪」
「それだと何か、カズミちゃんの為に作るみたいだよ」
にゃははは♪ときた。そうとも言えるな。
てゆうか。
「そんなに旨いんなら……俺も食ってみたい」
みるみるうちに、折山の顔が真っ赤に染まる。
そんな顔されると、何だかこっちが照れる。
「沢村に半分やろうか?」と、右川が絡んできた。
「そうやって、偽装でクリスマスを誤魔化そうとしても、ムダだぞ」
「あんたこそ何くれる気か知らないけど、よしこの金でアクセとか辞めてよね。くそダサい。速攻、売り飛ばす。あたし忖度しないから」
あぁ?!
思わずムッときたそこに、折山が、ぴょんという感じで間に入った。
「カズミちゃん、そんな言い方、ちょっと酷くない?」
「あ、あたし?」
こういう時、思うのだ。
俺は黙っていても勝てる。今はそんな予感に満ちている。
「沢村くんがくれる物なら何でも嬉しいでしょ?それと、プレゼントの人任せはよくない。チーズケーキの作り方、教えたげるから、カズミちゃんも一緒に作ろ?」
俺は、折山の言葉に、ただただ頷いた。「折山の言う通りだ」
「もぉぉぉーっ!」
まるで、おもちゃをねだるガキ。
店先で地団駄を踏む右川を横目に、折山と2人、顔を見合わせて笑った。
俺達のクリスマスか……。
つまり〝午後のお茶〟という店。
さっきとは属性が違う。
だが、さすがに入るのを躊躇った。それ程、俺には場違いである。
こういうのも女子が好きそうだなと、俺も外から一通り見て回るが、店員と目が合ったら気のせいか笑われたような。気が付くと、いつのまにか手にカップを握っていて……いつのまにか、毒されている。
がちゃん!
……割れてはいない。ゆっくりとカップを棚に戻した。
右川はと見れば、「独り暮らしになったら、こういうのをドンドン買うぞ~」
あれもこれもと燃えている。
店内に飾ってある犬の置物にまで手を伸ばし、その頭を撫でながら、「やっぱ頼りになる相棒も買っとかないとね。お手」と、まるで折山を慰めようと(なのか)必死で気分を持ち上げていた。
「うんうん。そうだね。はいはい」と、折山は苦笑いで手を乗せる。
そうやって適当に聞き流して。
それだ。
そういうノリが、さっき欲しかった。
「折山ちゃん、これとかどう?似合いそう」
店の隅にある衣類を取って、折山に当てた。
「だーかーらーって、伝染っちゃったじゃん。私、もうMサイズは入らないんだよ」
痩せなきゃ……と折山が溜め息をつくと、「折山ちゃんはもともとMだよ。金持ち野郎がSだから相性抜群だね」と大スベりで、またまたカマしている。
「いいなぁ、カズミちゃんはスリムで」
「良くないよっ。おかげで胸が無いよっ」
ドヤ顔で落ち込むな。
大丈夫だ。そうでもない。手のひらサイズは、あった気がする。
そこから不意に隣の店に入った折山は、1つの商品を手に取った。
「バーゲンで安くなってるんだね」と、上に下にじっくり眺める。
「それでも高い。どうしよう。これ1つでバイト代が飛んじゃう」
「そんなの、ねだっちゃえばいいじゃん。金持ち野郎が買ってくれんじゃないの。クリスマスだし」
右川はさっきの藤谷と同じような事を言った。
「私のじゃないよ。剣持くんに何あげたらいいかと思って」
そういう子なんだな、と思った。自分の物じゃなく。
「そうだねー……」と唸った右川は、「金持ちの趣味なんか知らないし。金持ちだから、もう何でも持ってんだろな」と偏見に満ちた自論を展開。
そうでもないぞ。俺ら男子が本当に欲しいものは、意外と形にならないモノばかり……だったりする。
「カズミちゃんは、沢村くんに何をあげるの?クリスマス」
「え?あ、ああ……内緒だよ♪」
「っていうか、おまえ全然考えてないだろ」
ここぞとばかりに、俺はその背後から刺し込んだ。
「おわ。巨人が現れたっ!立体機動だっ!」
徹底的に闘う姿勢で、右川は構えて見せる。
かと思うと、「てゆうか、すっかり忘れてました。沢村先生」と、あっさり認めた。
正直に言えば良いってもんじゃない。それで免れた気でいる。
だから余計にタチが悪い。
「あたし受験で、それ所じゃないからさ♪」
「それを言ったら、みんなそうだろ」
「あたしじゃなくてアキラが言ってんですけど。試験終わるまで、おまえらイチャイチャすんなよって」
「そうかな~?原田は、仲良く勉強しろって言ってくれるけど」
「でしょ?仲良くクリスマスじゃなくて、仲良く勉強♪」
「確かにそれ所じゃねーもんな、キミは!」と凄んで見せると、
「所じゃねーワ!センセイ」と、右川もメンチ切る。
「あの、私、お邪魔かな」と、折山が気を使い始めたので、「「そんな事ない」」と、ここは息の合ったハーモニーを聞かせておいた。
折山が眺めていた腕時計。23000円。……高価っ!
「前にさ、1度だけ沢村にビスケット作った事あったよね」
「あーはいはい」
確かにビスケットを貰ったな。
懐かしく思い出した。あれから1回も作って貰ってないけど。
折山は、「カズミちゃん、そんなの作れたんだ。すごいね」と目を見張る。
「でも、折山ちゃんのチーズケーキの方が全然美味いよ。神だよ」
「折山って、ケーキ屋?」と訊ねると、
「何トボけてんの」と脇腹に一撃が来た。
「金持ち野郎にさ、そういうのってどうかな」
「え?」と、まだ腑に落ちない俺を小突いて、
「だーかーらー、クリスマスにケーキ。お手製の」
俺はその狙いを理解した。「うん。そういうの、あいつも絶対喜ぶと思う」と底上げ、熱烈、協力する。
「そっか。そういうのもあるね。どうしようかなぁ」
折山は打って変わって、悩む様子に明るさを取り戻した。
「折山ちゃん、たくさん作ってあたしにもちょうだい♪」
「それだと何か、カズミちゃんの為に作るみたいだよ」
にゃははは♪ときた。そうとも言えるな。
てゆうか。
「そんなに旨いんなら……俺も食ってみたい」
みるみるうちに、折山の顔が真っ赤に染まる。
そんな顔されると、何だかこっちが照れる。
「沢村に半分やろうか?」と、右川が絡んできた。
「そうやって、偽装でクリスマスを誤魔化そうとしても、ムダだぞ」
「あんたこそ何くれる気か知らないけど、よしこの金でアクセとか辞めてよね。くそダサい。速攻、売り飛ばす。あたし忖度しないから」
あぁ?!
思わずムッときたそこに、折山が、ぴょんという感じで間に入った。
「カズミちゃん、そんな言い方、ちょっと酷くない?」
「あ、あたし?」
こういう時、思うのだ。
俺は黙っていても勝てる。今はそんな予感に満ちている。
「沢村くんがくれる物なら何でも嬉しいでしょ?それと、プレゼントの人任せはよくない。チーズケーキの作り方、教えたげるから、カズミちゃんも一緒に作ろ?」
俺は、折山の言葉に、ただただ頷いた。「折山の言う通りだ」
「もぉぉぉーっ!」
まるで、おもちゃをねだるガキ。
店先で地団駄を踏む右川を横目に、折山と2人、顔を見合わせて笑った。
俺達のクリスマスか……。