God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
〝ブス〟
ブス。
微かに、そう聞こえた。
右川の声だと思う。
俺が声のする方へ向かうと、剣持も慌てて立ち上がった。
見ると、さっきの店と店の間の通路で、3対1。右川と、藤谷らの3人組
ちょっと離れた所に折山がいて、その折山1人が泣いている。
何かあった……それは分かった。
そして恐らくは、展開されたであろうやり取りも、何となく想像が付く。
折山が、「カズミちゃん、ケンカはダメだよ」と右川の手を握った。
藤谷は、状況の分からない店員からにこやかに大きな紙袋を受け取る。
次の瞬間、右川はその紙袋を強引に奪って、「何すんのっ!」と、藤谷がキレるのも構わず、「これ返します」と店員さんに突き返した。
「返します。ブスは何着たってブスだから」
これか。
藤谷はここで初めて認識したらしい。「何なの!?」と怒りを露わにした。
「ブスブスブス。インスタ映えするブスって初めて。ブスが金なんか使うな。世界が許さない」
俺は、頭を抱えた。
甘かった。女子にだけは、本気で掛からないと思い込んでいた。
剣持に肩を叩かれて、我に帰る。項垂れている場合じゃない。
「こんな所でやめろよ」
俺が間に入ると、藤谷だけが、「あ、ゴメンね」とこっちに向かってすぐに謝った。
「あんた誰に謝ってんの。相手が違うじゃん!」
激高する右川を、ひとまず抑える。
折山が泣いているし、何かあったとは分かるけど。
「言いたい事があるにしても、もうちょっと穏やかに。言葉選んで」
これは、それぞれに言ったつもりだった。
だがまたしても藤谷だけが、「そうだよね。ほんとゴメン。あたしもイライラして。熱くなっちゃった」と項垂れる。
「うわ。地獄だワ」と、右川は毒づいた。
俺の言う事に、いちいち素直に頷く藤谷をどこか変だと思いながらも、とりあえず、その落ち着いた様子には胸を撫で下ろす。
このまま両方がエスカレートしての大喧嘩にはしたくない。
右川が女子に全力でボコボコ……どうなるか予測できないから、正直怖い。
右川の怒り矛先は、そこで当然と言うか、今度はこっちに向かった。
「もうさ、女子同士は穏やかに行けとか、話せば仲良くなれるとか、クソ甘い事言わないでくれる?あたしが気遣ってるとか言われんのも正直ムカついてんですけど。ただ嫌なの。こんなブスと話なんかしたくねーワ」
右川は、そこで藤谷を指さした。
「こいつの言ってる事、全然つまんないじゃん!」
眩暈がした。きっと勉強疲れではない。
藤谷は、「え……」と声を発したきり、顔面蒼白で固まる。
それでも、右川の口は止まらないようだ。
「言ってる事がもう、なんつーか全然普通で。あれでも、あたしを挑発してるつもり?いつもキンキン言ってるから、もっとパンチのあること聞けるかと思ったのに期待外れ。肌も汚いし、メイクも合ってないし。気持ち悪っ!お仲間もさ、こんなブスと一緒に居たら感性疑われるよ?そのメイク、一体誰をお手本にしてんの?誰目指してどこに向かってんの?これが3人集まると、ギャルサーなんだか劇団四季ライオン・キングなんだか、中途半端過ぎて分かんないんですけど。あれ?顔色悪いよ?まさか草とか食べてる?それって超インスタ映え~。逆にウケる~♪」
剣持が後ろから支えてくれなかったら、俺は倒れていたかもしれない。
男子どころじゃない。永田や重森に歯向かう時より、毒がパワーアップしている。それは鋭く、そして深く、藤谷の心中をエグった。(と思う。)
つまんないとか期待外れとか、肌やメイクに至るまで……今まで1度たりとも、冗談でも誰かからそこまでムゲに言われた事なんて無いだろう。
当然と言うか、藤谷は動揺を隠しきれない。口元に手を当てたまま震えた。
それだけ、右川の毒舌は藤谷には相当キツかったように思う。
2人の仲間に背後から慰められて、藤谷はようやく気を持ち直したのか、
「う……右川だっていつもいつも、くだらない事ばっかり。このメイクは今めっちゃキテんの。ド田舎から来た右川は知らないと思うけどっ」
右川の毒に比べたら、確かに普通だな……とか、冷静に添削してる場合じゃない。事がデカ過ぎて、俺も麻痺したか。
藤谷は、ショックを受けながらも、まだ泣いてはいなかった。
急にこちらに向かってきたかと思うと、何故か俺の背中に隠れる。
そして何故か、その体を預けてきた。
それはマズイだろ。
右川もそれを敏感に感じ取る。
「ちょっと!何でそんな風にまとわりつく訳!?」
「だって、こうでもしないと、あたし殴られそうだもん」
「だもん、て何!?さっきから、あんた誰って感じだよ!」
「落ち着けって。声がデカい」
そんな俺の制止も届かず、右川の怒りは頂点だった。
「落ち着け?このブスのやる事は我慢しろって言ってんの?折山ちゃんに堂々と嫌味言ったり、付き合ってるヤツらの間に強引に割り込んだり、それってあんた達仲間同士でも我慢できるの?!」
また藤谷を指さした。
「この女は悪魔なんだよ!学校辞めてくれよ。消えたって誰も困んないよ。邪魔だよ。逆に消えてくれ!臭いからどっか行け!見えない所でクルクルしろ!世界の願いだよ。マジでホント!」
ここまで来ると、いくら藤谷でも我慢が限界。
俺の背中にもたれたまま、とうとう泣き出してしまった。
塩谷と永井の女子2人が、藤谷を庇うように側につくと、藤谷の泣き声はさらに大きくなる。周りの客も騒ぎ始めて……。
俺は右川の肩周り、制服をぎゅっと掴んだ。
「おまえは言葉が強過ぎる。藤谷に謝れ」
周りを見ながら、できるだけ穏やかに言ったつもりだった。
右川は俺の手を振り払って、
「あたし悪くない。謝らない。ていうか、藤谷が折山ちゃんに謝ってよ。じゃないと絶対許さないから」
「分かる。おまえの言いたい事も」
だが、俺は全部を言えなかった。
折山が、泣きながら駆け出していったからだ。
その後を追うように剣持が続く。
ため息が出た。
次に、同じくらい、大きく息を吸い込む。
「ちょっとは冷静になって周りを見ろよ。折山は、自分のせいでケンカが始まったと思うだろ」
「あんたこそ冷静になんなよ。何されるがままになってんの。泣いたもん勝ち?それを言うなら折山ちゃんだって泣いてますけど。ブスっていうだけで藤谷の味方すんの止めてくんない?地味にヤべー奴だよ、それ」
「誰の味方もしてねーよ!」
右川は、自分の荷物を俺に向かって投げつけた。
胡坐をかいて地べたに座り込む。遥か下から上睨みした。
「もう帰ろう。駅まで送るから。とりあえず落ち着いて話そう」
聞えたはずだ。だが、右川は微動だにしない。
何だ、ストライキのつもりか。かと思ったら、スマホを取り出し、イヤフォンを装着。何やら聴き始めた。無視か。かと思ったら、「あーもう!イラっとくるなーホント!」と、やけくそで歌い出す。
そんな都合の良い歌があるか!
思わず、舌打ちが出た
「もう勝手にしろ」
微かに、そう聞こえた。
右川の声だと思う。
俺が声のする方へ向かうと、剣持も慌てて立ち上がった。
見ると、さっきの店と店の間の通路で、3対1。右川と、藤谷らの3人組
ちょっと離れた所に折山がいて、その折山1人が泣いている。
何かあった……それは分かった。
そして恐らくは、展開されたであろうやり取りも、何となく想像が付く。
折山が、「カズミちゃん、ケンカはダメだよ」と右川の手を握った。
藤谷は、状況の分からない店員からにこやかに大きな紙袋を受け取る。
次の瞬間、右川はその紙袋を強引に奪って、「何すんのっ!」と、藤谷がキレるのも構わず、「これ返します」と店員さんに突き返した。
「返します。ブスは何着たってブスだから」
これか。
藤谷はここで初めて認識したらしい。「何なの!?」と怒りを露わにした。
「ブスブスブス。インスタ映えするブスって初めて。ブスが金なんか使うな。世界が許さない」
俺は、頭を抱えた。
甘かった。女子にだけは、本気で掛からないと思い込んでいた。
剣持に肩を叩かれて、我に帰る。項垂れている場合じゃない。
「こんな所でやめろよ」
俺が間に入ると、藤谷だけが、「あ、ゴメンね」とこっちに向かってすぐに謝った。
「あんた誰に謝ってんの。相手が違うじゃん!」
激高する右川を、ひとまず抑える。
折山が泣いているし、何かあったとは分かるけど。
「言いたい事があるにしても、もうちょっと穏やかに。言葉選んで」
これは、それぞれに言ったつもりだった。
だがまたしても藤谷だけが、「そうだよね。ほんとゴメン。あたしもイライラして。熱くなっちゃった」と項垂れる。
「うわ。地獄だワ」と、右川は毒づいた。
俺の言う事に、いちいち素直に頷く藤谷をどこか変だと思いながらも、とりあえず、その落ち着いた様子には胸を撫で下ろす。
このまま両方がエスカレートしての大喧嘩にはしたくない。
右川が女子に全力でボコボコ……どうなるか予測できないから、正直怖い。
右川の怒り矛先は、そこで当然と言うか、今度はこっちに向かった。
「もうさ、女子同士は穏やかに行けとか、話せば仲良くなれるとか、クソ甘い事言わないでくれる?あたしが気遣ってるとか言われんのも正直ムカついてんですけど。ただ嫌なの。こんなブスと話なんかしたくねーワ」
右川は、そこで藤谷を指さした。
「こいつの言ってる事、全然つまんないじゃん!」
眩暈がした。きっと勉強疲れではない。
藤谷は、「え……」と声を発したきり、顔面蒼白で固まる。
それでも、右川の口は止まらないようだ。
「言ってる事がもう、なんつーか全然普通で。あれでも、あたしを挑発してるつもり?いつもキンキン言ってるから、もっとパンチのあること聞けるかと思ったのに期待外れ。肌も汚いし、メイクも合ってないし。気持ち悪っ!お仲間もさ、こんなブスと一緒に居たら感性疑われるよ?そのメイク、一体誰をお手本にしてんの?誰目指してどこに向かってんの?これが3人集まると、ギャルサーなんだか劇団四季ライオン・キングなんだか、中途半端過ぎて分かんないんですけど。あれ?顔色悪いよ?まさか草とか食べてる?それって超インスタ映え~。逆にウケる~♪」
剣持が後ろから支えてくれなかったら、俺は倒れていたかもしれない。
男子どころじゃない。永田や重森に歯向かう時より、毒がパワーアップしている。それは鋭く、そして深く、藤谷の心中をエグった。(と思う。)
つまんないとか期待外れとか、肌やメイクに至るまで……今まで1度たりとも、冗談でも誰かからそこまでムゲに言われた事なんて無いだろう。
当然と言うか、藤谷は動揺を隠しきれない。口元に手を当てたまま震えた。
それだけ、右川の毒舌は藤谷には相当キツかったように思う。
2人の仲間に背後から慰められて、藤谷はようやく気を持ち直したのか、
「う……右川だっていつもいつも、くだらない事ばっかり。このメイクは今めっちゃキテんの。ド田舎から来た右川は知らないと思うけどっ」
右川の毒に比べたら、確かに普通だな……とか、冷静に添削してる場合じゃない。事がデカ過ぎて、俺も麻痺したか。
藤谷は、ショックを受けながらも、まだ泣いてはいなかった。
急にこちらに向かってきたかと思うと、何故か俺の背中に隠れる。
そして何故か、その体を預けてきた。
それはマズイだろ。
右川もそれを敏感に感じ取る。
「ちょっと!何でそんな風にまとわりつく訳!?」
「だって、こうでもしないと、あたし殴られそうだもん」
「だもん、て何!?さっきから、あんた誰って感じだよ!」
「落ち着けって。声がデカい」
そんな俺の制止も届かず、右川の怒りは頂点だった。
「落ち着け?このブスのやる事は我慢しろって言ってんの?折山ちゃんに堂々と嫌味言ったり、付き合ってるヤツらの間に強引に割り込んだり、それってあんた達仲間同士でも我慢できるの?!」
また藤谷を指さした。
「この女は悪魔なんだよ!学校辞めてくれよ。消えたって誰も困んないよ。邪魔だよ。逆に消えてくれ!臭いからどっか行け!見えない所でクルクルしろ!世界の願いだよ。マジでホント!」
ここまで来ると、いくら藤谷でも我慢が限界。
俺の背中にもたれたまま、とうとう泣き出してしまった。
塩谷と永井の女子2人が、藤谷を庇うように側につくと、藤谷の泣き声はさらに大きくなる。周りの客も騒ぎ始めて……。
俺は右川の肩周り、制服をぎゅっと掴んだ。
「おまえは言葉が強過ぎる。藤谷に謝れ」
周りを見ながら、できるだけ穏やかに言ったつもりだった。
右川は俺の手を振り払って、
「あたし悪くない。謝らない。ていうか、藤谷が折山ちゃんに謝ってよ。じゃないと絶対許さないから」
「分かる。おまえの言いたい事も」
だが、俺は全部を言えなかった。
折山が、泣きながら駆け出していったからだ。
その後を追うように剣持が続く。
ため息が出た。
次に、同じくらい、大きく息を吸い込む。
「ちょっとは冷静になって周りを見ろよ。折山は、自分のせいでケンカが始まったと思うだろ」
「あんたこそ冷静になんなよ。何されるがままになってんの。泣いたもん勝ち?それを言うなら折山ちゃんだって泣いてますけど。ブスっていうだけで藤谷の味方すんの止めてくんない?地味にヤべー奴だよ、それ」
「誰の味方もしてねーよ!」
右川は、自分の荷物を俺に向かって投げつけた。
胡坐をかいて地べたに座り込む。遥か下から上睨みした。
「もう帰ろう。駅まで送るから。とりあえず落ち着いて話そう」
聞えたはずだ。だが、右川は微動だにしない。
何だ、ストライキのつもりか。かと思ったら、スマホを取り出し、イヤフォンを装着。何やら聴き始めた。無視か。かと思ったら、「あーもう!イラっとくるなーホント!」と、やけくそで歌い出す。
そんな都合の良い歌があるか!
思わず、舌打ちが出た
「もう勝手にしろ」