God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
次の日も、次の日も、休憩時間になるたびに、その悪魔、藤谷サユリは笑顔でやって来る。いつものように肩を叩く。右川の言動に傷ついた心が、いまだ癒えてないのかもしれない。それを考えて1度は許した。
が、次の休憩もそのまた次の休憩も、同じようにやってきて肩に触れてくる。さすがに困ると、「もういいよ」と、思い切って断った。
「だよね。沢村は怒ってるよね。右川から沢村を奪ったのはあたしだもん。いまさら肩なんか叩かれても、迷惑だよね」と、藤谷は叩く力を弱める。
「俺は奪われた覚えはないけど。でもさ」と続けて追求しようとすると、
「ここ痛い?」と不意に訊かれた。
押されたのは、肩甲骨の内側あたり。1番凝りが酷い所。
「痛くはない」と正直に答える。
「あたし力無いから。あんま気持ちよくないかも」と来られて、「おまえだって一応バレーで鍛えてんだから、力無い訳ないだろ」と思うまんま答えた。
「こういうのはどう?強い?」「いや、ちょうどいい」「ここ痛い?」「痛くない」「叩くとかじゃなくて揉んでみよっか。そういうの嫌?」と、さっきより幾分強めにほぐされて、それが嫌かどうかと問われたら……。
「別に、嫌じゃないけど」
「そ?良かったぁ」
さっきの切なさは何処へやら、藤谷は嬉々として肩を叩き続けた。
どこで間違ったのか。いつの間に、俺は許してしまったのか。
自分で自分が許せない。優柔不断の成れの果て。
藤谷の中で〝沢村は優しい〟と言い換えられているんだろう。
「サユリ、ご機嫌じゃーん」
知ってか知らずか、仲間が煽る。藤谷も笑顔でかわした。
藤谷にとってそんな居心地の良いクラスは、右川にとって最高に居心地の悪い場所となる。
相変わらず、右川は授業中以外、サッサと何処かに消えた。
前と違うのは、ちゃんと1度は俺を睨んで行く事ぐらいだろうか。
ラインの既読無視は、アタリマエ。
授業中、俺はその背中を見るだけになってしまった。ここに来て、まるで片思いである。アキラ曰く〝どっちを向いても背中〟か……そうでもなかったな。遠い記憶を思い出しながら、ぼんやりと妄想に耽った。
確かに。
藤谷を強く拒否できない俺は、今現在、ひどい彼氏だ。
彼女である右川に対して全然優しくない。確かに優しくない。
だけど右川こそ、ちゃんと彼女なんだから、そこまで無視しなくてもいいだろ。どこか納得いかない感じもあったし、そして……寂しい。
……学食。
右川が来ない昼休み、まったく静かだった。
そこには、かまって君もリリカルちゃんも居ない。
ふと、前を見ると、さっそく剣持と折山が和気あいあいと一緒に弁当を食っている。喋るのは剣持専門のようだ。(でしょうね。) 
折山は何を言うでもなく、うんうんと嬉しそうに相槌を打っていた。
もし俺が本当に折山と付き合ったとして、やっぱりそこには、千葉雄大も野村周平も居なかっただろうな。(せっかく弟の雑誌で予習したのに。)
見つけられた者には、それなりの見つけられた理由がある。
遠くのテーブル席に阿木を見つけた。仲間同士で弁当を広げている。
眠たそうに欠伸をした所に、横から湯気の立つ飲み物を渡されて、それを阿木は目を細めながらすすっている。寝不足。かなりヤラれてんな。
その肩先、向こう側に……重森が居た。
目が合った。見ぃつけた……とでも言うのか。
おまえだって、見つけられた側だろ。そして、けちょんけちょんにされた。
フッ。
この最悪な中、うっかり笑いそうになったよ。(さんきゅ。)
俺が弁当を広げようとすると、そこを塩谷と永井に見つけられた。
「サユリが探してたよーん」
俺の肩をポンと叩く。
悪魔に見つかってしまう……そこにも理由があるとでもいうのか。
「俺、ちょっと用を思い出して」と弁当もそこそこ、今日も生徒会室に逃げ込んだ。部屋の中に人の気配を感じて、右川がいると思い込み、焦って飛び込んだら、それは桂木で。
「ね、教えて」
と、単刀直入。からの。
「本当あたしって、いつまで言われ続ければいいの?」
噛みもせずにサラッと言ってのける。「強情な右川より、素直なミノリの方がマシだった」と言われ続けて、同じように、いたたまれないらしい。
「大学決まったから今だから、落ち着いて眺めてられるけどさ」
はい、と飴を寄越してくる。
「一体どうしちゃったの?藤谷さん達に好いように操られちゃってさ」
俺は何を言われているのか。一瞬、判断がつかなかった。
ブッ込まれた?絡まれた?嫌味を言われた?
「沢村、よく考えて。右川の方が可哀相だよ。違うかな?」
丹なる愚痴の続きかもしれない。学食にいて塩谷らに捕まるよりはマシだと桂木の愚痴を半分聞き流し、やけくそで弁当をガツガツ食らう。アクエリアスをガブ飲み。10分ぐらいなら、我慢して聞いてやる。
そこへ阿木も来た。
さっき飲んだばかりのコーヒーの香りを漂わせて。
阿木は、ただ1言、
「みんな、バカみたい」
秒殺。
素早く綺麗に、掃除してくれた。

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