God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
4 彼はケンカが強い。
嘘だ。
クソ弱い。
だが、「あいつ怖くない?ヤバくない?」と、一部の女子が怖れている。
彼の名誉のために言っておくが、彼は女子に手を上げるタイプではない。
ひょっとしたら、高身長というだけで強いと判断されているかもしれない。
実際はというと、同級生にバカがいるが、そいつにも勝てないと見ている。
お遊びの腕相撲ですら、ハンデを与えないと負けそうだった。
一応、バレーで鍛えてあるので、体力は普通にあるだろう。
中学時代に1度、足を骨折した事があると聞いた。
風邪とかあんまり引かない。学校を休んだ記憶はない。
日常生活は普通に送れる、それだけの体力ぐらいはあると思う。

5 彼の好きな女の子のタイプ。
彼の口からでた女性芸能人は、「有村架純」だけ。
それだって、気に入っているというよりも、唯一どこかで聞いて覚えていた名前に過ぎないと確信している。
彼はテレビを見ない。というか楽しんで見ない傾向がある。最近は特に。
「部屋で、恭士がいつもテレビを点けっぱなしにしてる」
続けて迷惑そうに、「勉強の邪魔だ。うるせー」と言い切っている。
芸能人から彼の好みを割り出す事は不可能に近い。
それではと知り合いの女子の名を挙げていくと、「そいつって何組?」と信じられない答えが返ってきた。
こないだ一緒に話している所にちゃっかり居たくせに、である。
それきり探求の場を失っていたが、実はつい最近、偶然にも彼の好みを垣間見ることができた。
お昼休みに彼が珍しく雑誌などを広げていたので、早速一緒に見ていると、ふと彼の手が止まる。
「こいつって歌手?」
と珍しく興味アリ!だった。
見ると、何かのニュースに乗っかって、水瀬いのりが写っている。
声優アーティスト。チャンスとばかりに色々教えてやった。
あたしは、花澤香菜サマが大好きだ。「この人は?どう?」と突っ込んだら、「誰かの姉ちゃんに似たようなのが居る」と失礼極まりない。
たまたま横にいたK氏が「知らねーの?こいつ、AV素人さんシリーズの子だよ」と茶々を入れてきたので、「あんたの獲物と一緒にすんな!」と思わずキレてしまい、真面目な会話はそこで終わった。

彼は、テレビは見ない。けれど、映画は見る。
と言っても、たいして詳しい訳ではない。
映画を見たと語るその様子には、誰が監督だとか映像美に凝っているとか、そんなウンチクは一切無いからだ。
「あれは凄かった」とか、もう普通に「すげぇ面白かった」などなど。
ちょっと聞くと、素っ気ないと思われがちだが、色々とゴタクを並べて知識をひけらかすより、心から映画の世界を楽しんでいるような所が、意外に好感が持てる。
これがK氏なら、スノッブなウンチクで固め、「あの結末は頂けない」とか、「最近の女優はブスだ」など、欠点ばかりをあげつらって終わりだろう。
だったら最初から見るなよと、言いたくなる。
実際、「おまえはもう映画を語るな」と、彼に釘を指されていた。
沢村先生、グッジョブ。
「受験が終わったら、見に行かない?学割で」
と、あたしも映画に誘われた事がある。
「DVDでいいじゃん」
「良くねーよ。でっかい画面で見るから迫力があるのに」
ウチは最近、55インチの4K大画面テレビを買ってさ……とは、口が裂けても言えなかった。
普通に大きくて、ごめんねー。

6 彼は、いいヤツである。
客観的に見て、正解。
主観的に見て、おおよそ正解である。
1言で言えば、彼は関わる全ての人間から絶大なる信頼を得ている。
その理由は何となくわかる。
彼は頼まれ事を、「嫌だから」という理由では絶対に断らないからだ。
他に予定があるとか、頼まれた物が無いとか、そんな理由なら周りは断られても納得するしかない。
模試の結果が悪くて、勉強に嫌気がさしていた時の、彼の言葉がある。
〝嫌だけど……やってしまうだろうな〟
あの言葉はそれの象徴だと思った。
しかし、彼の良いヤツあるあるは、それだけでは終わらない。
彼に頼み事なんてするはずもない友人ですら、彼を信用し褒めたたえる。
普段話した事も無く、よく知りもしないのに、性格がいいと抜かす。
そういう友人に、彼がゴミに向かって激しくキレたり、あたしをいい加減とかテキトーとか言って罵る姿を見せてやりたいと思う。
結構派手にケンカもしているから、そんな事みんな分かっていると思いきや、聞いている友人の全部が全部、「右川の方が悪い」と口々に言う。
「右川の言い方が良くない」とか、「右川の努力が足りない」とか。
だが、あたしに言わせると、それは彼にだって当てはまると思う。
彼の言い方に思いやりのカケラもないし、あたしに関して彼が何か努力しているとはどうしても思えない。
「勉強教えてもらってんじゃん」と友人は言うけれど、あたしは「答えを見せて♪」と頼んだのであって、「チェックして♪」と言った覚えはないのだ。
あたしの頼み事は「いいよ」と簡単に聞いてくれない。
彼は露骨に嫌な顔をして、「そうは行くか」と戦う気満々である。
友人に言わせると「それが右川のためだから」と都合良く収まるのだ。
そんな数々の彼女エピソードが、さらに彼の評判に拍車を駆けた。
彼は頭も良い。
性格もいい。
右川のような彼女の面倒をよく見ている。
彼を知っている先生・生徒のみならず、あたしの尊敬するA氏、よく知らない輩まで彼を持ち上げ始める。
双浜で彼を知らない奴は出てけ!ぐらいの勢いがある。顔とか全然普通でも、性格がいいと言う評判だけで見た目の評価が2割増しされる危険がある。
それを危惧しつつ、これを、ほぼ正解とする。
ではここで、あたしに関する周りの評判の1部をご紹介しよう。
くそチビ。
いい加減。
不真面目。
アタマ悪そう。
貧乳。
見渡せば殆どが、彼の真反対を意味している。(胸は別として。)
性格悪いと言われないのがせめてもの救いだった。
だがそれも、「あの彼が付き合うくらいだから、右川さん、あー見えて性格だけはいいのかもしれない」と彼に付随した結果となっている。
これには震えた。
まるで、あたしが彼のついでに生きているような気がしてくるぢゃないか!

そこまで刺されっぱなしのあたしが何故、彼と付き合っていけるのだろう。
それは、彼がちゃんと、普通だからである。
神様でもゴミでもない。

以上。
現場から右川がお送りしました。

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