God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
お前の彼女と写真
最後の模擬試験の結果が戻ってきた。
調子も戻ってきたと実感している。
古屋先生からも、ストレート合格間違いない!とまでは行かないが、何とかお墨付きを頂いて、自動的生活も順調であった。
受験に比べたら、期末試験なんか楽勝である。驚いた事に、右川が今回は追試を免れるという奇跡を起こして、先生を大喜びさせていた。
俺だって心配していたし、それを聞いて安心もした。全く口もきかない状態の中で……状況はまるで、いつかの振られた時と酷似している。
学校は針のむしろ。
そして塾は、リアルに試練の場。
10分悩んでも解けなかった問題を棚上げ。次の授業の準備に関連ページを開いていると、そこへ何やら手続きを終えたと、森畑がやって来た。
いつもの、俺の前の席に座る。
さっそく先日の話に及んだ所、「実はさ」と言いにくそうに、
「悪いと思ったんだけど、こないだ、勢いでお前の彼女と写真取ってさ」
いつのまに、だった。
そんな話聞いてない。ま、今は聞くタイミングも無いに等しいから。
いつもの席に、重森が居る。素知らぬ振りで、背中で聞いているかもしれない。その反応を気にしつつ、森畑の声に耳を傾ける。
森畑は「見るか?」と言って、軽快にスマホを操り、「あれ?どのテーマに括ったかな」と探し始めた。
溜め込んだ画像。らしき写真を横目で盗み見ていると、それには、他の女子と撮った写真が続く。
「可愛い子だった場合だけ、とりあえず保存してあるんだよ」
とか言ってるけど。どういうテーマで括っているのか知らないが、可愛いとは……どう見ても右川には、そぐわない気がした。
「あれ?出てこない」と、今も必死に探しているけれど。
森畑的に、俺に気を遣っているのかもしれないが、それは無用だ。
写真は単なる記念という以上の何物でもないだろうから。気にしてない。
見ていると、双浜の女子生徒もチラホラ写っている。
「これ、どうしたの?」
あぁ、これ?と森畑は目を細めて。
「これは確か、偶然会って撮ったんだよな。6月頃だったかな」
テニス部の女子だった。
他の画像、森畑と一緒に写ってる女子の顔立ちを目で追う。
その雰囲気とか見た目とかを見るにつけ、森畑もキツイ部類だなと思った。
だからというか、それでやっぱり俺の身近に居てしまうという事なのか。
同類、相哀れむ。
「もういいよ」と止めたら、「そ?」と、森畑はスマホを閉じた。
どこの世界に、彼女が他の男子と写る場面を見たい彼氏がいるというのか。
森畑にしたら、彼女と仲良くなった事を下手に隠したくないという意思の表れだろう。
さらに、「おまえが言うほど可愛気無くないよ。俺どっちかっつーと、ああいう子好きだな」と絶賛だった。
その笑顔は、俺に気を使って……とも見えない。
そこまで取り込まれてしまったのか。ちょろ過ぎるぞ。
今現在、最高に可愛気ない彼女だが、それは言わないでおいた。
「でも、あれだな」と、森畑はその先を言いたいらしいので。
「何?」と促してやると、
「可愛いとこもあるけど、別の意味で……心配になったりしない?彼氏としてさ」
俺は森畑に握手を求めた。
さすがというか、分かっていらっしゃる。
「センセイ、今日もいい顔してるゼ」と、森畑は親指を突き出した。
「前から聞きたかったんだけど、それってどういう意味」
「その彼女と昨日あたりヤってる、って事さ」
おー、ヤってるさ。
ケンカを。
昨日どころじゃなく。
森畑の言い当ては5割の確立で当てにならないと確信した。
昨日は右川の修道院試験の日だった。
どうだったのか気になる。本人から聞くまでは敢えて無関心を装うと決めてはいるけれど。それは、いつになったら聞けるのか。
こんなやりとりを横で聞いていた古屋先生が、「戦う男の顔って事だよ」と添えた。確かに戦っています。相手はライオン・キングと、チンピラですが。
ふと、いつかの偽名女子。〝コレサワ〟と名乗った不審人物。
あれが俺の彼女で右川なんですと……古屋先生に明かしておくべきかどうか。それを考えた。だが、あれが言えば言ったで、森畑と山下さんの冷やかしに、古屋先生までもが加わる危険性があるな。(……止めとく。)
「いつも何かにチャレンジしてる感じ、いいよね」と古屋先生は笑った。
「つまりその彼女と、今夜あたりヤるね!って事ですね」
古屋先生は、やれやれと苦笑いする。
山下さんほど、そういう類の雑談には乗れないようだ。
森畑の予想、当たる確立をゼロに変更。
「そういえば昨日。偶然、あん時の子に会ったよ。ホラ、お前の彼女とケンカになりそうだった女子が居たじゃん」
藤谷か。
「そいつの話はやめてくれ。もう、マジうなされそうなんだよ」
森畑はプッと吹き出して、「あそこまでイキってると、ヤベぇな」
仲良くゲーセン、上手くやってると見せて、見る所はちゃんと見ていたと言う訳か。さすが、分かっていらっしゃる。
藤谷サユリ。あいつは、強さと切なさを使い分ける。
まさに。
「悪魔だよ」
「それな」
森畑も大きく頷いた。

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