Ｇod bless you！～第１3話「藤谷さん、と」
★★★右川カズミですが……これは、ヤキモチかもしれない
明日は２４日。
クリスマス。
今年のあたしには無関係な行事になりにけり。
今朝、電車の中でラインを見た。
『いつもの時間に駅にいる。今日は必ず来いよ。来てくれよ。聞きたい事もあるから』
せっかく座れたから寝てたっていうのに、邪魔すんじゃねーワ。
どんなにシタ手に出て来られようとも、あたしの怒りは収まらない。
乗り換える駅に着いてから、『ビッチと地獄に落ちろ。ぶぁーか！』と返信した。そしたら、いつも乗換える電車を見送ってしまう。結果、いつもより１本遅れて駅に着いた。コンビニに寄る時間も無い。
〝人を呪わば穴２つ〟
アキラが語る諺が浮かんだ。アキラは勉強と称して、たまに諺を持ち出す。
そこから、人生の哲学とやらの説教にまで発展するんだけど、諺にかこつけて「この頃の若いもんは」と日頃の鬱憤を晴らしているとしか思えない。
仕方ないから、今朝のコンビニは諦めた。沢村のせいだ。腹減って死んだらどうしてくれんだ。朝からイライラしちゃうだろ。
こないだの事だ。
帰りの駅の同じホームで、いつかのチャラい付属野郎に偶然会った。
向こうもこっちに気づいたのか、眉間にシワを寄せ、激しくメンチ切ってきたので、こっちも同じくらいの目ヂカラでもって威嚇する。
あの日スタバで、付属にしては愛嬌１２０パーセント、妙に馴れ馴れしい感じでやって来た。沢村の友達だというけど、ノリくんとは真反対のキャラだ。
ひょっとしたら面白いヤツかな？と期待して、
「じゃ、次行ってみよ～♪」
いっそ清々しくスルーしてやったのに、オイッ！と突っ込む事すらしてくれなかった。ノリが悪い。そういうツマんない男子であった。
おかげで、あたしだけが悪者になったぢゃんか。クソ頭くるよ。
電車が来て乗り込んだら、その付属野郎は座れた。
込んできた車両の中、成り行き上、あたしはそいつの前に立たされる。
つり革に掴まらないあたしを見て、
「随分、つり革が遠いな」
手をかざして、遥か先を眺める素振りだった。こっちの目線とほとんど変わらない位置から、早速攻撃してきやがる。
「さっさと席譲ってよ。付属の金持ち野郎のくせに。う、吐く。おえっ」
付属野郎はムッとして立ち上がった勢い、次の駅で降りた。
吐き戻される事に怯えたのか。それとも、お坊ちゃん校を晒されて、周囲の視線に耐えきれず居心地が悪くなったのか。
どうでもいいと言えば、どうでもいいや。
「うほーい！」とイジる永田も。「くくく」とスカして笑う黒川も。
ただただ面倒くさい重森も入れとこうか。あいつも、あの子も、そいつも……何だってこう沢村の周辺、あたしは敵まみれなのか。
毎日毎日毎日毎日毎日！
藤谷が可哀相、右川が悪い。
沢村が可哀相、右川が悪い。
あたし以外の全てが可哀相だと言って、すれ違う。
普段何処にいるのかも知らない奴らがやってきて、堂々とケンカを売っていく。男子はもれなく無視した。女子は……正直、何をやっていいのか分からなくて、とりあえず「藤谷は人の彼氏を横取りした」と宣伝（？）しておく。
「だって右川とは別れたんでしょ？今はもう藤谷の彼氏じゃん」
その堂々たる発言には、マジで吐き気を催した。
どうしてそうなってしまうのか。
その原因は……今現在も目の前にある。
かなり冷たい風が吹き抜ける通学路で、周りはみんな、心もち下を向いて歩いた。マフラーに顔の殆どを埋め、両手をコートのポケットに突っ込んで。
反対側の歩道に、沢村がいた。
朝っぱらから、藤谷サユリもその隣にいる。
相変わらず沢村にまとわりついている。
ヤツもどういう訳か、嫌がるでもなく隣を許しているから、驚く。
これだよ。
ほんといつまでも常識疑うワ。ついでに人格も疑っとく。
ビッチ藤谷といつまでもそうやって仲良くしてりゃいい。常識無い者同士、どこまでも話が盛り上がる訳だ。
藤谷は右手で沢村のジャンパー（コーナン）の袖を掴んでいる。
左手は髪の毛をクルクル回す。親切を通り越して、今度はどこまでも可愛い彼女を演じるって訳！？……これは、ヤキモチかもしれない。
学校に向かう真っ直ぐな道のり。
店先には赤とグリーンで彩ったクリスマス仕様の飾りが続く。
どうすんだよっ。あたし達のクリスマス。
コンビニを通り過ぎた所で後ろから、「右川チビ子！」と叫ぶ声がした。
見ると、感性悪いラップ野郎だ。
あんたらの部類はどこまで呼び捨てなのか。
仲良くもないのに、チビチビ言うな。
「こないだはよくもやってくれたな」と、どっかで聞いたような台詞の後、
「今度、藤谷を泣かせたら、承知しないぞ」
これまた良く聞く台詞だった。全然面白くない。わざわざ立ち止まって聞く程の価値が無い。ツマんない女子の周辺は、やっぱりツマんなかった。
〝類は友を呼ぶ〟と、またまたアキラの名言出ました。
あたしは合点が行った。
周囲がこうだから、ツマんない沢村が出来上がってしまうんだと。
「おいこら、聞いてんのか」
「だーかーらー、もう飽きたって」
「ああ！？待てよっ！」
「はい？」と本当に待ってやったら、
「な、なんだよ。急に止まるなよ！」と逆ギレ。
面倒くさいな。まるで永田だよ。
「右川チビ子！」
ラップ野郎は、まっすぐこっちを指さした。
「ストレート、おまえはもう２度と藤谷に近寄るな！」
「いいよ。つーか。あたしの方からビッチに近寄った覚え無いけど」
ラップ野郎は、自分の言った台詞を反芻して、軽く混乱中。
「あれ？もしかして、あんたバカなの？ＨＥＹ，ＹＯ♪」
「う、う、うるせぇッ！」
愛する女のためにオレ様が敵と戦うとばかりに、二次元ワールドを妄想している。そんな自分に酔ってるとしか思えない。永田と似ていると思った。
違う所と言えば、顔が日焼けしている事ぐらいだろうか。
よく見ると、金持ち野郎と似たようなアクセサリーを身に着けている。
耳のピアスもペンダントも。
そう言えば髪型も、金持ち野郎と似てなくもない。
ぷんぷん漂う香水も、然り。
「あーなるほど」
ラップ野郎は、「あ？何だそのエラそーな態度は」と凄んで見せる。
「あんたって、金持ち？」
「は？違げーよ。悪かったな」
「はい消えた」
あたしは、ぱちんと手を叩いた。ラップ野郎は、目をぱちぱちさせる。
「あんたに剣持の代わりは無理って事。そのピアスもペンダントも、寄せてるけどどうせ偽物でしょ？どんなに似せても、顔がなんちゃってだワ。朝から臭いんだけど、ネズミでも喰ってんの？」
「う……」と呻いたきり、ラップ野郎は動かなくなった。
あれ？
まだ半分も言ってないよ。
校内ヒエラルキーの上層階が、この程度で言葉を失うとは……それを思えば、沢村はスタミナがある。なかなか凹まない。ライフポイントの高い奴だな。
そして、ラップ野郎は隙だらけ。
あたしはその足元めがけ、すこん！と一撃喰らわせた。
クリスマス。
今年のあたしには無関係な行事になりにけり。
今朝、電車の中でラインを見た。
『いつもの時間に駅にいる。今日は必ず来いよ。来てくれよ。聞きたい事もあるから』
せっかく座れたから寝てたっていうのに、邪魔すんじゃねーワ。
どんなにシタ手に出て来られようとも、あたしの怒りは収まらない。
乗り換える駅に着いてから、『ビッチと地獄に落ちろ。ぶぁーか！』と返信した。そしたら、いつも乗換える電車を見送ってしまう。結果、いつもより１本遅れて駅に着いた。コンビニに寄る時間も無い。
〝人を呪わば穴２つ〟
アキラが語る諺が浮かんだ。アキラは勉強と称して、たまに諺を持ち出す。
そこから、人生の哲学とやらの説教にまで発展するんだけど、諺にかこつけて「この頃の若いもんは」と日頃の鬱憤を晴らしているとしか思えない。
仕方ないから、今朝のコンビニは諦めた。沢村のせいだ。腹減って死んだらどうしてくれんだ。朝からイライラしちゃうだろ。
こないだの事だ。
帰りの駅の同じホームで、いつかのチャラい付属野郎に偶然会った。
向こうもこっちに気づいたのか、眉間にシワを寄せ、激しくメンチ切ってきたので、こっちも同じくらいの目ヂカラでもって威嚇する。
あの日スタバで、付属にしては愛嬌１２０パーセント、妙に馴れ馴れしい感じでやって来た。沢村の友達だというけど、ノリくんとは真反対のキャラだ。
ひょっとしたら面白いヤツかな？と期待して、
「じゃ、次行ってみよ～♪」
いっそ清々しくスルーしてやったのに、オイッ！と突っ込む事すらしてくれなかった。ノリが悪い。そういうツマんない男子であった。
おかげで、あたしだけが悪者になったぢゃんか。クソ頭くるよ。
電車が来て乗り込んだら、その付属野郎は座れた。
込んできた車両の中、成り行き上、あたしはそいつの前に立たされる。
つり革に掴まらないあたしを見て、
「随分、つり革が遠いな」
手をかざして、遥か先を眺める素振りだった。こっちの目線とほとんど変わらない位置から、早速攻撃してきやがる。
「さっさと席譲ってよ。付属の金持ち野郎のくせに。う、吐く。おえっ」
付属野郎はムッとして立ち上がった勢い、次の駅で降りた。
吐き戻される事に怯えたのか。それとも、お坊ちゃん校を晒されて、周囲の視線に耐えきれず居心地が悪くなったのか。
どうでもいいと言えば、どうでもいいや。
「うほーい！」とイジる永田も。「くくく」とスカして笑う黒川も。
ただただ面倒くさい重森も入れとこうか。あいつも、あの子も、そいつも……何だってこう沢村の周辺、あたしは敵まみれなのか。
毎日毎日毎日毎日毎日！
藤谷が可哀相、右川が悪い。
沢村が可哀相、右川が悪い。
あたし以外の全てが可哀相だと言って、すれ違う。
普段何処にいるのかも知らない奴らがやってきて、堂々とケンカを売っていく。男子はもれなく無視した。女子は……正直、何をやっていいのか分からなくて、とりあえず「藤谷は人の彼氏を横取りした」と宣伝（？）しておく。
「だって右川とは別れたんでしょ？今はもう藤谷の彼氏じゃん」
その堂々たる発言には、マジで吐き気を催した。
どうしてそうなってしまうのか。
その原因は……今現在も目の前にある。
かなり冷たい風が吹き抜ける通学路で、周りはみんな、心もち下を向いて歩いた。マフラーに顔の殆どを埋め、両手をコートのポケットに突っ込んで。
反対側の歩道に、沢村がいた。
朝っぱらから、藤谷サユリもその隣にいる。
相変わらず沢村にまとわりついている。
ヤツもどういう訳か、嫌がるでもなく隣を許しているから、驚く。
これだよ。
ほんといつまでも常識疑うワ。ついでに人格も疑っとく。
ビッチ藤谷といつまでもそうやって仲良くしてりゃいい。常識無い者同士、どこまでも話が盛り上がる訳だ。
藤谷は右手で沢村のジャンパー（コーナン）の袖を掴んでいる。
左手は髪の毛をクルクル回す。親切を通り越して、今度はどこまでも可愛い彼女を演じるって訳！？……これは、ヤキモチかもしれない。
学校に向かう真っ直ぐな道のり。
店先には赤とグリーンで彩ったクリスマス仕様の飾りが続く。
どうすんだよっ。あたし達のクリスマス。
コンビニを通り過ぎた所で後ろから、「右川チビ子！」と叫ぶ声がした。
見ると、感性悪いラップ野郎だ。
あんたらの部類はどこまで呼び捨てなのか。
仲良くもないのに、チビチビ言うな。
「こないだはよくもやってくれたな」と、どっかで聞いたような台詞の後、
「今度、藤谷を泣かせたら、承知しないぞ」
これまた良く聞く台詞だった。全然面白くない。わざわざ立ち止まって聞く程の価値が無い。ツマんない女子の周辺は、やっぱりツマんなかった。
〝類は友を呼ぶ〟と、またまたアキラの名言出ました。
あたしは合点が行った。
周囲がこうだから、ツマんない沢村が出来上がってしまうんだと。
「おいこら、聞いてんのか」
「だーかーらー、もう飽きたって」
「ああ！？待てよっ！」
「はい？」と本当に待ってやったら、
「な、なんだよ。急に止まるなよ！」と逆ギレ。
面倒くさいな。まるで永田だよ。
「右川チビ子！」
ラップ野郎は、まっすぐこっちを指さした。
「ストレート、おまえはもう２度と藤谷に近寄るな！」
「いいよ。つーか。あたしの方からビッチに近寄った覚え無いけど」
ラップ野郎は、自分の言った台詞を反芻して、軽く混乱中。
「あれ？もしかして、あんたバカなの？ＨＥＹ，ＹＯ♪」
「う、う、うるせぇッ！」
愛する女のためにオレ様が敵と戦うとばかりに、二次元ワールドを妄想している。そんな自分に酔ってるとしか思えない。永田と似ていると思った。
違う所と言えば、顔が日焼けしている事ぐらいだろうか。
よく見ると、金持ち野郎と似たようなアクセサリーを身に着けている。
耳のピアスもペンダントも。
そう言えば髪型も、金持ち野郎と似てなくもない。
ぷんぷん漂う香水も、然り。
「あーなるほど」
ラップ野郎は、「あ？何だそのエラそーな態度は」と凄んで見せる。
「あんたって、金持ち？」
「は？違げーよ。悪かったな」
「はい消えた」
あたしは、ぱちんと手を叩いた。ラップ野郎は、目をぱちぱちさせる。
「あんたに剣持の代わりは無理って事。そのピアスもペンダントも、寄せてるけどどうせ偽物でしょ？どんなに似せても、顔がなんちゃってだワ。朝から臭いんだけど、ネズミでも喰ってんの？」
「う……」と呻いたきり、ラップ野郎は動かなくなった。
あれ？
まだ半分も言ってないよ。
校内ヒエラルキーの上層階が、この程度で言葉を失うとは……それを思えば、沢村はスタミナがある。なかなか凹まない。ライフポイントの高い奴だな。
そして、ラップ野郎は隙だらけ。
あたしはその足元めがけ、すこん！と一撃喰らわせた。
