God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
まずは本当の所、相手が今はどう思っているのか。本当に本気なのか。フザけたとかじゃなく。それが純粋に訊きたいと、折山ちゃんは言う。
「沢村くんから、どうにかその辺、訊きだしてもらえないかな」
「そうなるとさ、折山ちゃんのそういう事情を全部、話さなきゃならなくなるよ。あいつ追求始まったらトコトンだもん。いきなりそんな事訊くなんて、おまえ一体何企んでんだ?白状しろコラ!みたいな」
すると折山ちゃんは俯き加減、
「カズミちゃんてさ、怖いとか思った事ない?」
「何が」
「沢村くんとよくケンカしてるけど、そういうの」
「別に無いけど」
と、いいつつ、ちょっと考えた。
沢村を怖いと思った事は……あった。あったね、確か。何度か。
急に勢い付いて来られたら、今でもちょっとはビビる。
マジ怒らせたら怖い人種かもしれない。
いつかの夜も、怖いと言えば怖かった。だけどあれは、沢村という人間が怖かった訳ではなく、こっちの不安が強かったからで。
結論、「怖かったら……今現在、付き合ってないと思うけど」
折山ちゃんは、「そうか、そうだよね」と、まるで自身に言い聞かせるみたいに何度も頷いた。
「私、剣持くんの周りの人たちが、何か怖くてさ。男子も女子も」
「あー、チャラい男子とか、バレー部の藤谷さんとかね。きついもんね」
「カズミちゃんだったら、普通に話せるのかもしれないけど」
「あたしだって全然。あいつらって、何話してもゾクゾク来ないじゃん」
折山ちゃんは「ゾ、ゾクゾク?ゾクゾク……って、ゾクゾクかぁ」と、そこだけを繰り返して困惑と安堵をゴチャ混ぜにしたような笑顔を覗かせる。
どうも聞いてると、そういう迷惑な周りに悟られないように、金持ち野郎の気持ちを確認して欲しい、という事かな。
とりあえず、「何とか、沢村にもそれとなく当たってみる」という事で、体育館に戻る折山ちゃんを見送って、あたしもその場を離れた。
クラスに戻って様子を窺うと、相変わらず沢村の周りは賑やかだ。
推薦が決まって身も心も開放されたヤツらばかり。そんな中、沢村は辞書を引く手を休めず、それでも耳を傾けている。
どっかで迷惑だなって思ってんじゃないの?
あたしは遠目で疑っている。
つーか、課題プリントは終わったのかよって。だったら見せろぉ~。
とはいえ、自分からあの中に飛び込む気にはなれない。
折山ちゃんじゃないけど、あたしも、あいつらはどうも苦手だ。
できれば近寄りたくない。あんな所にのこのこ出向いて行ったら、ストレート蜂の巣!間違いない気がする。ここはおとなしく、空気を演じるのだ。
そこへ、藤谷さんがクラスにやってきた。
藤谷さんは、確か3組である。
そこも自習なのか、暇を持て余してなのか、5組に遊びに来たようだ。
その藤谷さんが、こっちに近寄ってきた。途端に、海川が体を硬くする。
何かと思ったら「これ置いとくよ!」と藤谷さんは、そこから何やら海川に投げた。海川は露骨に嫌な顔はしたものの、そのまま何も言わず前を向く。
「なに?」と聞くと、「貸してくれともいわないでさ、勝手にCD奪ってさ」と、机に投げられたラブライブのCDを広げた。
海川は「あーあ」と溜め息をついて、「ジャケットが折れてるよ」と嘆く。
「コピーする時に気をつけるとか、全然考えてくれないんだよな」
確かに、ちょっと乱暴だと思った。
CDを投げるというのが普通じゃない。割れたらどうすんだ。
「ていうか、藤谷さんってラブライバーなんだ。意外っていうか」
想像つかない。
「違うよ。誰だか知り合いが好きで、今までの全部聴かせたいからって」
つまり、又貸し。
「もう絶対持ってこない」と、海川は半ベソをかいた。
「ね、それ次はあたしに貸して♪」
「〝僕たちはひとつの光〟は入ってないかもしんない」とか言いながらも、海川は貸してくれた。(てか、それ何?知らないんですけど。)
「カズミちゃん、試験前でしょ」と、ヨリコが横槍を入れる。
「息抜き息抜き~。たまにはバカになる時間もないとね♪」
ラブライブをバカ扱いにされたとあってか、海川は口をすぼめた。
「ねぇ」と、ヨリコが悩ましく投げかける。
何かと思ったら、
「さっき、カズミちゃんが消えてる間にさ、あそこの人達に、課題やったら見せてくれって言われたんだけど。答え間違って、後で色々言われんのも嫌だな。どうしよう」
「あ、それ。出来たらあたしも次、写さして♪」
ヨリコはぎろりと、あたしを睨んだ。
「カズミちゃんは写すの禁止。本当にバカになるよ。ついでに、沢村くんにもチクるから」
「うぐ」
やりにくいったら無い。
この所、輪を掛けて、沢村の存在を突き付けられる事が多くなった。
思えば、その沢村だってそうだ。「山下さんにチクるぞ」とか「山下さんが心配してた」とか、堂々とアキちゃんを持ち出す事に遠慮が無い。それもどうかと思うけど、それだけアキちゃんという存在が彼にとっては最初から脅威でも何でもなく、ただ純粋に味方であるという事を裏付けているので、これはこれで良い事かもしれないけど。
「ねぇ、出来た?」と、女子の1人が、向こうの群れを抜けてやってきた。
辺りに、ぷーんと甘い匂いが漂う。
「まだ。途中で」と、ヨリコは遠慮がちに、
「阿木さんに見せてもらったらどうかな。沢村くんとかも、もう終わってそうだし」って、ヨリコの苦し紛れの言い訳が炸裂だ。
……頑張れ。
祈りを捧げつつ、あたしはゆっくり背中を向けた。
ヨリコには悪いけど、居眠り。ZZZ……。
「国立組は忙しいから。進藤さんて、もう大学決まってんでしょ?」と理由になるような、ならないような。そんな理由で濁されたヨリコは、「まだ途中で。終わるかどうか分かんないし」と曖昧を武器に逃げの一手。「んじゃ、もう途中でいいや。貸して」と、プリントを奪って、女子は元のグループに戻って行った。その先で、女子が2~3人固まってプリントを覗いている。
ああぁー……声にならないヨリコの嘆きが漂う。
海川は、おとなしく辞書を引き始めた。あたしも、何となく。
ヨリコは永い、永ぁ~い、溜め息をついて、
「カズミちゃんってさ、こういう時、気配消すの上手いよね」
「はい?はい?」
「ワザとらしい。見て見ない振りしてさ」
「バレた?」
てへ。
「ああいうの、上手く遠ざけてくれませんか。会長さん」
「いやそんな高度な。無理無理無理無理無理無理無理無ぅ~」
「はいサイテー」
ヨリコは両手人差指で、こっちの背中を、つん!と突いた。
「沢村くんから、どうにかその辺、訊きだしてもらえないかな」
「そうなるとさ、折山ちゃんのそういう事情を全部、話さなきゃならなくなるよ。あいつ追求始まったらトコトンだもん。いきなりそんな事訊くなんて、おまえ一体何企んでんだ?白状しろコラ!みたいな」
すると折山ちゃんは俯き加減、
「カズミちゃんてさ、怖いとか思った事ない?」
「何が」
「沢村くんとよくケンカしてるけど、そういうの」
「別に無いけど」
と、いいつつ、ちょっと考えた。
沢村を怖いと思った事は……あった。あったね、確か。何度か。
急に勢い付いて来られたら、今でもちょっとはビビる。
マジ怒らせたら怖い人種かもしれない。
いつかの夜も、怖いと言えば怖かった。だけどあれは、沢村という人間が怖かった訳ではなく、こっちの不安が強かったからで。
結論、「怖かったら……今現在、付き合ってないと思うけど」
折山ちゃんは、「そうか、そうだよね」と、まるで自身に言い聞かせるみたいに何度も頷いた。
「私、剣持くんの周りの人たちが、何か怖くてさ。男子も女子も」
「あー、チャラい男子とか、バレー部の藤谷さんとかね。きついもんね」
「カズミちゃんだったら、普通に話せるのかもしれないけど」
「あたしだって全然。あいつらって、何話してもゾクゾク来ないじゃん」
折山ちゃんは「ゾ、ゾクゾク?ゾクゾク……って、ゾクゾクかぁ」と、そこだけを繰り返して困惑と安堵をゴチャ混ぜにしたような笑顔を覗かせる。
どうも聞いてると、そういう迷惑な周りに悟られないように、金持ち野郎の気持ちを確認して欲しい、という事かな。
とりあえず、「何とか、沢村にもそれとなく当たってみる」という事で、体育館に戻る折山ちゃんを見送って、あたしもその場を離れた。
クラスに戻って様子を窺うと、相変わらず沢村の周りは賑やかだ。
推薦が決まって身も心も開放されたヤツらばかり。そんな中、沢村は辞書を引く手を休めず、それでも耳を傾けている。
どっかで迷惑だなって思ってんじゃないの?
あたしは遠目で疑っている。
つーか、課題プリントは終わったのかよって。だったら見せろぉ~。
とはいえ、自分からあの中に飛び込む気にはなれない。
折山ちゃんじゃないけど、あたしも、あいつらはどうも苦手だ。
できれば近寄りたくない。あんな所にのこのこ出向いて行ったら、ストレート蜂の巣!間違いない気がする。ここはおとなしく、空気を演じるのだ。
そこへ、藤谷さんがクラスにやってきた。
藤谷さんは、確か3組である。
そこも自習なのか、暇を持て余してなのか、5組に遊びに来たようだ。
その藤谷さんが、こっちに近寄ってきた。途端に、海川が体を硬くする。
何かと思ったら「これ置いとくよ!」と藤谷さんは、そこから何やら海川に投げた。海川は露骨に嫌な顔はしたものの、そのまま何も言わず前を向く。
「なに?」と聞くと、「貸してくれともいわないでさ、勝手にCD奪ってさ」と、机に投げられたラブライブのCDを広げた。
海川は「あーあ」と溜め息をついて、「ジャケットが折れてるよ」と嘆く。
「コピーする時に気をつけるとか、全然考えてくれないんだよな」
確かに、ちょっと乱暴だと思った。
CDを投げるというのが普通じゃない。割れたらどうすんだ。
「ていうか、藤谷さんってラブライバーなんだ。意外っていうか」
想像つかない。
「違うよ。誰だか知り合いが好きで、今までの全部聴かせたいからって」
つまり、又貸し。
「もう絶対持ってこない」と、海川は半ベソをかいた。
「ね、それ次はあたしに貸して♪」
「〝僕たちはひとつの光〟は入ってないかもしんない」とか言いながらも、海川は貸してくれた。(てか、それ何?知らないんですけど。)
「カズミちゃん、試験前でしょ」と、ヨリコが横槍を入れる。
「息抜き息抜き~。たまにはバカになる時間もないとね♪」
ラブライブをバカ扱いにされたとあってか、海川は口をすぼめた。
「ねぇ」と、ヨリコが悩ましく投げかける。
何かと思ったら、
「さっき、カズミちゃんが消えてる間にさ、あそこの人達に、課題やったら見せてくれって言われたんだけど。答え間違って、後で色々言われんのも嫌だな。どうしよう」
「あ、それ。出来たらあたしも次、写さして♪」
ヨリコはぎろりと、あたしを睨んだ。
「カズミちゃんは写すの禁止。本当にバカになるよ。ついでに、沢村くんにもチクるから」
「うぐ」
やりにくいったら無い。
この所、輪を掛けて、沢村の存在を突き付けられる事が多くなった。
思えば、その沢村だってそうだ。「山下さんにチクるぞ」とか「山下さんが心配してた」とか、堂々とアキちゃんを持ち出す事に遠慮が無い。それもどうかと思うけど、それだけアキちゃんという存在が彼にとっては最初から脅威でも何でもなく、ただ純粋に味方であるという事を裏付けているので、これはこれで良い事かもしれないけど。
「ねぇ、出来た?」と、女子の1人が、向こうの群れを抜けてやってきた。
辺りに、ぷーんと甘い匂いが漂う。
「まだ。途中で」と、ヨリコは遠慮がちに、
「阿木さんに見せてもらったらどうかな。沢村くんとかも、もう終わってそうだし」って、ヨリコの苦し紛れの言い訳が炸裂だ。
……頑張れ。
祈りを捧げつつ、あたしはゆっくり背中を向けた。
ヨリコには悪いけど、居眠り。ZZZ……。
「国立組は忙しいから。進藤さんて、もう大学決まってんでしょ?」と理由になるような、ならないような。そんな理由で濁されたヨリコは、「まだ途中で。終わるかどうか分かんないし」と曖昧を武器に逃げの一手。「んじゃ、もう途中でいいや。貸して」と、プリントを奪って、女子は元のグループに戻って行った。その先で、女子が2~3人固まってプリントを覗いている。
ああぁー……声にならないヨリコの嘆きが漂う。
海川は、おとなしく辞書を引き始めた。あたしも、何となく。
ヨリコは永い、永ぁ~い、溜め息をついて、
「カズミちゃんってさ、こういう時、気配消すの上手いよね」
「はい?はい?」
「ワザとらしい。見て見ない振りしてさ」
「バレた?」
てへ。
「ああいうの、上手く遠ざけてくれませんか。会長さん」
「いやそんな高度な。無理無理無理無理無理無理無理無ぅ~」
「はいサイテー」
ヨリコは両手人差指で、こっちの背中を、つん!と突いた。