God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
白状する、でげす。
あそこの、ああいう部類とマジ関わりたくない。
沢村とは付き合っても、その付録までは要らないのだ。
成り行きで、アギングにその負担が押し付けられる事が切ないから、という事もある。嫌だからという理由では断らない沢村も然り。
「あの人達だって、もう大学決まってんじゃんね」と、ブツブツ言いながら、ヨリコは別の授業の宿題を開いた。内職決定。はい、こっちもサイテー。
そして、あたしは机の下、こっそりmusicアプリを起動。
神聖かまってちゃん、の〝Os宇宙人〟
画面の表示を眺めながら、しばらくはイヤフォンから流れてくる熱い叫びに心震わせる。
ずばり、ハルミちゃんの影響だ。なかなか気に入った。
おっと自習課題はどうした?はい、サイテー。
海川には、ラブライブはどうした?と突っ込まれるかもしれない。
今朝は英語をちょっとお休みして、これを聴きながら来た。
隣を歩く沢村に、「かまってちゃん、知ってる?今のあたしの気分はね、このかまってちゃんが超ヤバいんだよ」と言ったら、急にこっちの耳元に顔を近付けて、「マジで?実は俺も」と来た。
やけに鼻息が荒い。
恐らく、違う事を考えてブッ飛んでいる。寒さが原因なのかどうか判断が難しいけれど、多分それではない。その顔がもう、耳まで真っ赤っ赤だった。
はい、サイテー。
「かまってちゃんはバンドだしっ。あんたは勘違いだしっ」
沢村を、ド突いて沈めた。こっちまで恥ずかしくなったじゃんか。
(おかげで体は温まったけど。)
その後、急に沢村がしおらしくなったので、こりゃ落ち込んでマズいかなと思い、かまってちゃんのサビに合わせて、「あー、あなたの事がぁ好きぃ~♪」と何度も何度も繰り返すその部分を歌ってみた。
〝彼に好きだと言ってないの?〟
いつかハルミちゃんに言われた事が頭にあったからだ。
これだけあからさまに訴えているのに、本人は全く気付いてくれない。
ド突かれて納得いかない表情からの、すぐに諦めて、沢村は自分のスマホから何やら聴き始める。はい、サイテー。
思い出し笑いが止まらない。
かまってちゃんが、まともに聴けなくなったら沢村のせいだ。
コレサワに変えよう……。
その時である。
「なにこれ。可愛い!」と、大きな嬌声が上がった。
他所から集まった賑やかな女子のグループが、「サンタ・コス!」「これ、チワワ?」「オスだよね」「トナカイじゃないの?」と、何やらスマホを覗きながら、賑々しくクリスマスの話題に沸騰している。
「何だよッ!どけどけどけッ!」と、お馴染みのバカ……永田が喰い付いて、案の定、女子全員から煙たがられた。
見渡すとクラスの半分は下を向いている。その半分は勉強。残りの半分はスマホに夢中で。踊ったり歌ったり、活き活きと動き回るのはごく一部だ。
その中に藤谷さんも居て、その藤谷さんの横に……あいつがいた。
剣持という名前の、金持ち野郎。
こいつも自習なのか、さっそく遊びに来ている。
金持ちらしく、耳にピアス(これ偏見?)。首にはペンダント。その隣では、感性悪いラップ男が何やら歌っている。
確か、そいつも金持ち野郎とバンドを組んでいるとか。
こんなのと一緒に居る、それだけで金持ち野郎の感性のレベルが疑える。
藤谷さんが、沢村の肩をトントンと、リズミカルに叩き始めた。
その後ろにラップ男が立って、そいつは藤谷さんの肩を叩く。
そのまた後ろに……女子、誰だっけ?もうお腹一杯。
藤谷さんは、「ちょっと静かにしなよ。こうウルさいと沢村が勉強になんないじゃん」とか言っている。
沢村は、「しょうがねーな」とか言いながらも、それを受け入れて、肩を叩かれながら、前に座っているノリくんの話に耳を傾けていた。
(ノリくんまで来ているとは……自習祭り?)
あたしと付き合う前からそうやって肩を叩いている女子は、藤谷さんに限らず見掛けた。沢村がミノリと付き合っていた頃にも散々あった。
いつもの事。特別な事でも何でもない。
だけどちょっと納得いかない。
これは決して、ヤキモチとかじゃなく。
藤谷さんは、さっき海川をあれだけ邪険に扱っておいて、自分の仲間には態度を変えて、平然と親切を装っている。
それを知ってか知らずか、ラップ男は、藤谷さんを話題の中心に据えて、「あれ?おまえ最近痩せた?」と持ち上げてヘラヘラ&トントンしていた。
藤谷さんも、「えー?マジで?やだぁ」と、嬉しさを隠しもしない。
ワザとらしい。
そういう辺り、周りは気付いているのか。見て見ぬ振りなのか。
普通、男子の前で態度を変える女子というのは、他の女子の非難をごうごうと浴びる。
しかし藤谷さんのように、目立つ男子女子に囲まれている子というのは、たとえそれがほんの1部であっても、男女共にすごく人気があると判断される傾向にあった。
目立つ男女はいろんな所で、藤谷さんのノリの良さ、性格の良さを吹聴する。海川のようにおとなしい男子は、目立つ男子を敵には回せない。
藤谷さんにどんなに酷い仕打ちをされても黙るしかないのだ。
ヨリコのように、課題を押しつけられる事も、然り。
折山ちゃんの事を考えた。
もし金持ち野郎と付き合う事になったりしたら、もれなくあいつらが絡んでくる。ヤツらの強い言動に、折山ちゃんはいちいち傷つくだろうな。
あたしは……どうすりゃいいかな。
たぶん、あたしは女子とは体を張って戦えない。
そう確信している。重森とは違う。
重森を倒しても、誰もヤツを可哀相とは言わないから。
右川なんかにやられちゃったのか、あはははは!と笑われて終わるだけ。
本人も、チビに負けた!とは死んでも言いたくないと思う。
しかし、女子同士でやりあって怪我なんかしてしまったら、相手がどんなに極悪だろうが、やっつけた右川が悪い!となってしまうと思った。
相手が藤谷さんのような性格のいい人気者だと錯覚されているなら、尚の事。
女子には手は出さない。
これが、自分の中で絶対越えない一線。女子と男子との違いだった。
折山ちゃんをどうしよう。
ミッション、まずは敵情偵察。
勇気を出して、金持ち野郎に接近だ。
コレサワの軽快なメロディーに任せて、途中までやってきた時、沢村と藤谷さんの2人がまず、こっちに気が付いた。
2人して、おや?という目線のハーモニーを送ってくる。
ラップ男が「おまえらストレート3角関係。間違いないゼ~」と歌い始めるとそれで周囲も気付いたらしい。何だ?何だ?と微妙な注目を寄越し始めた。
とはいえ、鏡を覗いて、殆ど無視に近いコも居た。二度見も居た。チビ過ぎてウケるんですけどぉ~と口元が言ってる。(と、あたしには見えた。)
マジ、無理っす。
あたしを彼女にしたいなら~♪
コレサワがラストの部分に差し掛かった所で、あたしはクルリと翻る。
バカを装って、廊下に消えた。
次の休憩にするワ。
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