Ｇod bless you！～第１3話「藤谷さん、と」
優しいって事だよ！
昼休みになった。
休憩だーっ！
……と、勢いよく立ち上がらない輩は、受験勉強で睡眠時間が削られてアタマがどうかしているから……と、俺は見ている。
朝４時に目覚める俺は、元から時間軸がどうかしていて、昼だというのに午後３時のような黄昏感が漂う。
俺も立ち上がらないまま、しばらくぼんやりした。そのうち隣からソースの好い匂いがしてきて、そこでやっと我に返る。
そうだ、右川と学食で待ち合わせをしていた。
俺が立ち上がった所に剣持が近づいてきたのだが、一体何を頼みたかったのか、聞こうかどうしようか迷っていると、「あのさ、少しだけいいかな」と剣持の方から切り出してきた。
周囲には誰も居ない。
それでも周りを窺いながら、これまた、いつになく小さい声で。
「俺さ、実は１組の折山が、ちょっと気になってて」
「オリヤマ？」
「女子？」と訊くと、「そう」と剣持は頷いた。
（生意気な後輩の話ではなかった。）
剣持が気になる女子。〝オリヤマ〟
「知らないけど」と返すと、「ウソ。マジで？右川が超仲好いんだけど」
それで間に入って、どうにかうまくやってもらえないか……と言う事が言いたかったらしい。
ただ１つだけ問題があると言う。
俺には分かった。
剣持が以前ちょっとだけ付き合っていた女子。
ズバリ、藤谷サユリだ。
２～３回、ヤッただけ。
その程度で別れたと、確か聞いている。それ以後、剣持の方はもう何でもない感じだったが、藤谷の方は、どうもそうではないらしい。
卒業間近を意識したのか今になって、「できればもう１度やり直したいんだよね」と剣持以外の周りに向かって堂々と宣言している。
それらしい事を俺も聞いている。
それにも関わらず、剣持よりもどちらかというと、俺にまとわりつく事の方が多い気がした。藤谷のそういう性質は中学の頃からで、おかげでこっちは妙な噂まで立てられ、工藤あたりからは今でもイジられる。
どういう気かしらないが、以前から藤谷の気まぐれな性格は分かっているので、深く考えないまま、ここまで来ている。今となっては、無料で肩を叩いてくれるマシンだと捉えて、便利に使っているのだが。
「それそれ」と、剣持は人差指でこっちを突いた。
「藤谷はワザとその姿を見せて、こっちを煽ってんだよ」
「え？」
「早く決めてくれないとアタシは沢村に行っちゃうよ、って」
こういう時、思うのだ。
藤谷だけを言わず、どうして女子と言うのはそこまで自信満々なのか。
いつもいつでも自分は注目されて、突けば、男子は焦って飛びついて来ると勘違いしている。
「沢村には悪いけど、別に行ってくれてもいいかなって」
思わず、「おいおい」と出た。
「俺には右川がいるし、それは藤谷だって知ってるだろ」
「それを藤谷に言わせると、沢村と右川は絶対もうすぐ終わるから、と」
俺は溜め息をついた。未だに危うい2人だと思われているのか。
「それって藤谷的に、剣持でも俺でも、どっちでもいいって事か」
「出来れば俺の方がいいぐらいの。ほら！クリスマスが近いから」
金持ちがいいのか、とすぐに察した。チッと思わず舌打ちが出る。
「何も俺らじゃなくても、あいつの周りには男子が他にも沢山いるだろ」
「あいつが遠藤とかを相手にすると思う？無い無い」
遠藤は剣持と同じ水泳部だった。ちなみにラッパーの砂田もだ。
「そっかな。良さそうだけど。遠藤。普段からよく話してるみたいだし」
「それは遠藤を操って、色々と探ってんだよ。部内で俺が絡んでる女子はいるのか？って」
親しい振りに見せかけて、利用されている。
気付かないまま、訊かれるままに、遠藤は色々うっかり晒しているかも。
「遠藤は俺側だから、何を知ったとしても藤谷には黙ってくれると思う」
剣持は、そこから言いにくそうに言葉を濁すと、
「遠藤と違って、沢村は嫌がらないから。藤谷も居心地良いんだろうな」
その瞬間、俺の中で何かが閉じた。
「いや！優しいって事だよ！」
そこだけ極端に大きな声になる。今ので説得力が激減したゾ。
いつの間にか、自分が優柔不断の代名詞みたいになっていたとは……金と居心地のよさを量りにかけられて、正直、迷惑。
ふと、浮かんだ。
居心地よさそうと言えば良さそう。
大学決まってバイト始めたから、遊ぶ金は程々に有ると思うし。
「砂田とかは」
「さすが鋭い、センセイ。砂田は結構その気で、それが１番良いんだけど」
どうも砂田は藤谷の規格外らしい。世の中はうまくいかない。
藤谷の扱いはとりあえず置いとくとして、とにかくオリヤマという女子の気持ちを、右川を通じてそれとなく確かめてくれという。
聞けば、本人にはもうすでに告白しているとか。
「だったら」
「それがさ、告ってから、かなり時間が経っちゃって」
剣持は、無邪気にえくぼを作って見せた。
恋話が恥ずかしい。照れ臭い。嬉しくてしょうがない。
「で？」と俺はその先を促す。ちょっと飽きてきた、とは言えない。
「修道院の試験が終わってからと思ってたら、こんな時間が掛かっちゃって。藤谷の事もあったし」
「その折山って子、どこいくの」
「推薦で修道院に決まってる。それもあって、俺も同じとこに決めたみたいなもんでさ」
剣持は、へへと笑って、「大学は何処でも良いなと思って。そしたら３年になって進路指導室でちょくちょく折山と会って大学の事、色々話してたら、同じとこ行きたくなってきて」
俺と右川も似たような展開だったな。
ここまで話せば、剣持はその折山にかなり本気だと見て取れる。
こいつは男子から見てもイケてるし、意外に真面目だし（金もあるし）、剣持みたいな男子にそこまで思ってもらえたら、折山って子も嬉しいだろう。
俺に金は無い。今は右川のほうが持ってる気がした。
「何か悪いな。こっち側の事情ばっかりで」
「……」
「って、センセイ。今何考えてる？」
「いや、大学生になったら俺もバイトをしようかなって」
「はいぃ？」
剣持は苦笑いと見せて、その口元の笑窪が愛嬌ハンパない。
「センセイ……俺の話、聞いてた？超真面目な相談だけど」
「はいはい」
許せ。許さん。明日。水曜日。どうでしょう。と言えばムンクさん。いやカブトムシだろ。そこはキャンプ地とする、だろ……お約束のように、くだらないやり取りにしばらく時間を費やして、剣持に別れを告げた。
右川にライン。
『この後、昼メシは生徒会室に変更。ちょっと話があるんだけど』
休憩だーっ！
……と、勢いよく立ち上がらない輩は、受験勉強で睡眠時間が削られてアタマがどうかしているから……と、俺は見ている。
朝４時に目覚める俺は、元から時間軸がどうかしていて、昼だというのに午後３時のような黄昏感が漂う。
俺も立ち上がらないまま、しばらくぼんやりした。そのうち隣からソースの好い匂いがしてきて、そこでやっと我に返る。
そうだ、右川と学食で待ち合わせをしていた。
俺が立ち上がった所に剣持が近づいてきたのだが、一体何を頼みたかったのか、聞こうかどうしようか迷っていると、「あのさ、少しだけいいかな」と剣持の方から切り出してきた。
周囲には誰も居ない。
それでも周りを窺いながら、これまた、いつになく小さい声で。
「俺さ、実は１組の折山が、ちょっと気になってて」
「オリヤマ？」
「女子？」と訊くと、「そう」と剣持は頷いた。
（生意気な後輩の話ではなかった。）
剣持が気になる女子。〝オリヤマ〟
「知らないけど」と返すと、「ウソ。マジで？右川が超仲好いんだけど」
それで間に入って、どうにかうまくやってもらえないか……と言う事が言いたかったらしい。
ただ１つだけ問題があると言う。
俺には分かった。
剣持が以前ちょっとだけ付き合っていた女子。
ズバリ、藤谷サユリだ。
２～３回、ヤッただけ。
その程度で別れたと、確か聞いている。それ以後、剣持の方はもう何でもない感じだったが、藤谷の方は、どうもそうではないらしい。
卒業間近を意識したのか今になって、「できればもう１度やり直したいんだよね」と剣持以外の周りに向かって堂々と宣言している。
それらしい事を俺も聞いている。
それにも関わらず、剣持よりもどちらかというと、俺にまとわりつく事の方が多い気がした。藤谷のそういう性質は中学の頃からで、おかげでこっちは妙な噂まで立てられ、工藤あたりからは今でもイジられる。
どういう気かしらないが、以前から藤谷の気まぐれな性格は分かっているので、深く考えないまま、ここまで来ている。今となっては、無料で肩を叩いてくれるマシンだと捉えて、便利に使っているのだが。
「それそれ」と、剣持は人差指でこっちを突いた。
「藤谷はワザとその姿を見せて、こっちを煽ってんだよ」
「え？」
「早く決めてくれないとアタシは沢村に行っちゃうよ、って」
こういう時、思うのだ。
藤谷だけを言わず、どうして女子と言うのはそこまで自信満々なのか。
いつもいつでも自分は注目されて、突けば、男子は焦って飛びついて来ると勘違いしている。
「沢村には悪いけど、別に行ってくれてもいいかなって」
思わず、「おいおい」と出た。
「俺には右川がいるし、それは藤谷だって知ってるだろ」
「それを藤谷に言わせると、沢村と右川は絶対もうすぐ終わるから、と」
俺は溜め息をついた。未だに危うい2人だと思われているのか。
「それって藤谷的に、剣持でも俺でも、どっちでもいいって事か」
「出来れば俺の方がいいぐらいの。ほら！クリスマスが近いから」
金持ちがいいのか、とすぐに察した。チッと思わず舌打ちが出る。
「何も俺らじゃなくても、あいつの周りには男子が他にも沢山いるだろ」
「あいつが遠藤とかを相手にすると思う？無い無い」
遠藤は剣持と同じ水泳部だった。ちなみにラッパーの砂田もだ。
「そっかな。良さそうだけど。遠藤。普段からよく話してるみたいだし」
「それは遠藤を操って、色々と探ってんだよ。部内で俺が絡んでる女子はいるのか？って」
親しい振りに見せかけて、利用されている。
気付かないまま、訊かれるままに、遠藤は色々うっかり晒しているかも。
「遠藤は俺側だから、何を知ったとしても藤谷には黙ってくれると思う」
剣持は、そこから言いにくそうに言葉を濁すと、
「遠藤と違って、沢村は嫌がらないから。藤谷も居心地良いんだろうな」
その瞬間、俺の中で何かが閉じた。
「いや！優しいって事だよ！」
そこだけ極端に大きな声になる。今ので説得力が激減したゾ。
いつの間にか、自分が優柔不断の代名詞みたいになっていたとは……金と居心地のよさを量りにかけられて、正直、迷惑。
ふと、浮かんだ。
居心地よさそうと言えば良さそう。
大学決まってバイト始めたから、遊ぶ金は程々に有ると思うし。
「砂田とかは」
「さすが鋭い、センセイ。砂田は結構その気で、それが１番良いんだけど」
どうも砂田は藤谷の規格外らしい。世の中はうまくいかない。
藤谷の扱いはとりあえず置いとくとして、とにかくオリヤマという女子の気持ちを、右川を通じてそれとなく確かめてくれという。
聞けば、本人にはもうすでに告白しているとか。
「だったら」
「それがさ、告ってから、かなり時間が経っちゃって」
剣持は、無邪気にえくぼを作って見せた。
恋話が恥ずかしい。照れ臭い。嬉しくてしょうがない。
「で？」と俺はその先を促す。ちょっと飽きてきた、とは言えない。
「修道院の試験が終わってからと思ってたら、こんな時間が掛かっちゃって。藤谷の事もあったし」
「その折山って子、どこいくの」
「推薦で修道院に決まってる。それもあって、俺も同じとこに決めたみたいなもんでさ」
剣持は、へへと笑って、「大学は何処でも良いなと思って。そしたら３年になって進路指導室でちょくちょく折山と会って大学の事、色々話してたら、同じとこ行きたくなってきて」
俺と右川も似たような展開だったな。
ここまで話せば、剣持はその折山にかなり本気だと見て取れる。
こいつは男子から見てもイケてるし、意外に真面目だし（金もあるし）、剣持みたいな男子にそこまで思ってもらえたら、折山って子も嬉しいだろう。
俺に金は無い。今は右川のほうが持ってる気がした。
「何か悪いな。こっち側の事情ばっかりで」
「……」
「って、センセイ。今何考えてる？」
「いや、大学生になったら俺もバイトをしようかなって」
「はいぃ？」
剣持は苦笑いと見せて、その口元の笑窪が愛嬌ハンパない。
「センセイ……俺の話、聞いてた？超真面目な相談だけど」
「はいはい」
許せ。許さん。明日。水曜日。どうでしょう。と言えばムンクさん。いやカブトムシだろ。そこはキャンプ地とする、だろ……お約束のように、くだらないやり取りにしばらく時間を費やして、剣持に別れを告げた。
右川にライン。
『この後、昼メシは生徒会室に変更。ちょっと話があるんだけど』
