ボクは初恋をまだ、知らない。
花岡くんはボクの手を握ったまま離さないで、熱い言葉をボクに放った。

「その正確なリズム感!!
音に対しての忠実な姿勢と実力!!
俺らは探していたんだ!
後1人の卓逸した才能人を!!」

「ぼ…ボクが…?…あの、そんな大層な事してない…のに…ぇっと、けっ啓介ぇー!!」

予想外の花岡くんの熱さに圧倒されて、
ボクはつい啓介に助け舟を出してしまった。

「…拒む理由はない、千影。
その手を握り返せばいい。」

何故かすっごい渋い良い声でボクを諭してくる。

薫を見ると、黙ってこくんと頷いてるよ。

「月村!!お願いだ!!」

花岡くんの必死にお願いしてくる少し眉の下がった健気な表情に観念したボクは、彼の手を握り返した。

「…初心者の、ボクでも良ければ。」

「やったぁー!!」

「わーい!!千影加入決定ー!!」

「おめでとう千影!!晴れてお前も
仲間入りだ!」

「えっ!?ちょっ啓介!?うわぁぁ!?」

啓介がボクの股の間にしゃがんで潜り込んだ瞬間、一気に視界が高くなった。

まさかの肩車でクラクラしたが、
下を見ると、花岡くんと薫が嬉しそうな顔でボクにハイタッチを求めてきた。

「…喜びすぎだよ、皆。」

でも、気分は悪くないや…。

こんな一匹狼だったボクでも、
人の輪の中に入れる喜びを知ったよ…。

あるんだ…青春って…。

ボクも、青春して……いいんだっ!!

ずっと心のある1部分で
扉を閉じていた感情が、皆の笑顔のノックによってすっかり開いてしまった…。

啓介曰く、この日をきっかけに
ボクの笑顔が増えたらしい……。



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