ボクは初恋をまだ、知らない。
「千影ー!おはよう!」
「おはよう、薫ー!」
あの出来事以来、お互いなかなか話さなかった薫とは、また徐々に関係もいつも通りに戻っていった。
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そして、高2の冬。
そろそろ進路を考え出す時期、
ボクは改めてきちんとこれからの道を定めた。
「千影は服飾の専門行くんだろ?」
「うんっ!啓介は…やっぱ家継ぐの?」
部活のミーティング前、啓介とそんな会話を交わす。
「俺はそうなるな…親父ともう約束したし。
薫は短大目指すからダンス部は来年引退。
翔はアメリカ留学決まったし!なー?」
そう、翔は幸運にも、アメリカで名高いダンススクールに行ける権利を今年勝ち取ったのだ。
来年の春にはもう、アメリカへと行ってしまう。
「翔、楽しみだね!アメリカ」
ボクの隣にいた翔に話しかけたが、
何だか上の空で、体育館の入口の方をボーッと見つめていた。
切なげな表情をしていたから、何を見てるんだろうと視線を追うと、今年春からダンス部に加入してくれていた1年生の女の子へのものだった。
「……翔って…やっぱりゆめちゃんの事…」
「えっ!?なに?!」
慌ててボクの話に振り向いた。
ほらやっぱり。その子の名前に反応した。
「…恋煩いかよ、翔さんよう。」
啓介がそう言うと、翔の顔がちょっぴり赤くなった。
「言葉にすんなって!俺も、このタイミングで好きって自覚すんの、辛いんだから…。」
翔には、久しぶりに好きな人が出来ていた。
留学が決まった後に自覚したらしく、
最近ふとした時にぼーっとしている。
「なら、クリスマスパーティでもやるか!
思い出作りしよーぜ。皆で。」
そんな啓介の提案で開催されたクリスマスパーティは、翔にとってかけがえのないものになったみたい。
春を迎えて、アメリカに旅立つ前に
翔は見送りに行った僕に言った。
「千景、お互い夢の為に頑張ろうな。」
「うん、お互い頑張ろう!」
ボクは翔に、あるものを渡した。
「花鳥風月のチームタオル。
ボクの分身だと思って、アメリカに持って行って」
「…ありがとう。嬉しい。」
翔はタオルをぎゅっと握りしめた。
「あたしたちも持ってるよ!ほら!」
薫が広げて見せた。
花鳥風月の朱色のロゴを見て、
翔はうるうるしていた。
「向こうで翔が誰と新しいチームを作ろうが、俺らはずっと花鳥風月だ!寂しがりの翔ならこうゆうの喜ぶだろ?」
啓介はいつもと変わらないテンションで翔に接している。
「嬉しいよ、ありがとう、皆!
…行ってきます!!」
覚悟を決めた翔の笑顔は、
皆が大好きなキラキラした笑顔だった…。
「元気でやれよー!!
いつか!翔のダンスの衣装も!
作ってやるからなぁー!?」
ボクの言葉に返事するように、
手を振った翔は、アメリカへ旅立った…。