ボクは初恋をまだ、知らない。
その日は朝からとにかく体調が優れなくて
1時間目の体育の大好きなマラソンの時間でさえ
苦痛でたまらなかった。

男女合同で走る中、
ようやくゴールしたボクの脚の太もも辺りに違和感があった。

「……なんだろ?」

膝丈のジャージの裾に何かがボクの脚を伝う感触。
膝の裏を触って手を見ると、紛れもない血だった。

「………え?なにこれ?」

その時、ボクの後ろにいた男子がからかうような声を浴びせてきた。

「うわっ!月村!生理来たんかー?!」

「えっまぢ?月村男だと思ってた!」

「ケツ汚れてるぞー?」

「…え?え?なに?」

男の子達のその声で、周りがボクに注目してざわついた。

指摘され、お尻を触ってみると、濡れてる感触。
ジャージのズボンが血で染まっていた。

「何これ!?いつの間に…」

ボクはパニックを起こしていた。
女子特有のデリケートな問題に、
自分自身もついになった事。
男子がボクを女扱いしてからかう姿。

こんな痴態を晒して注目を浴びられた事に、
一気に頭から血の気が引いて行った。
体調不良の原因は、これだったの…?

「……っ!?」

「千影!?大丈夫!?」

眩んで尻もちをついたボクに、
真っ先に薫がそばに駆けつけて来てくれた。

「……っっ!」

泣きそうになって俯いていると、
薫はボクの腕の下に肩をまわして起こそうとしてきた。

「保健室行こう?立てる?」

「待って、こんな姿……」

ざわついていたクラスメイト達だったが、
薫の友達がボクの姿を周りから見えないように
囲んでくれた。

「ちょっと!男子見ないであげて!」

「なんだよーうるせぇなぁ!」

女の子達に守られていたボクの頭の上に、
突然大きなジャージが降ってきた。

「薫、これ被せてあげな。」

「ありがとう、翔!…よし、千影!
あとすこしだけ頑張りな!」

「うん…」

起き上がった時、ぼんやりする視界に、
綺麗な顔した茶髪の男の子が見えた。

ボクと目を合わすことなくその場から離れてく彼。

クラス1番人気者の、花岡 翔(カケル)くんだ。

彼ともまた、薫との接点で繋がっていく事になる。

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