ボクは初恋をまだ、知らない。
薫とその友達2人に連れられて、
ひとまずボクらは保健室に1番近いトイレに入った。

「とりあえずジャージとパンツ脱ぎな?」

「あたし保健室でナプキン貰ってくる!」

便器に座らされたボクは、
狭い所に来れて少し落ち着いてきたが、
慣れない血の臭いのせいで気持ち悪い。

「ごめんね、薫の手も汚れてる…」

「いいから!てゆうか脱がすよ?!」

「えっ!?」

薫がボクのジャージを脱がせて、
一瞬動きが止まり、目を丸くして言った…。

「……千影、ボクサー履いてるのね。」

「……そうだよ。」

何か言いたげな顔をしたけど、
友達がナプキンと生理用パンツを持ってきてくれたので、一旦薫には外に出てもらった。

個室で1人になったボクは、
鼻をすすり小さく声をあげて泣いた。

血だらけのティッシュペーパーに涙が零れ落ちた。

外では、薫の手の洗う水音がする。

途中から水音が豪快な音を立てて流れている。

ボクの泣き声を、かき消してくれるかのように…。


ーーーーーーー

保健室のベッドにやっと横になれた頃には、
付き添いは薫だけになった。
サイドテーブルにお薬と水の入ったコップが置かれた。

「……薫。何から何までありがとう。」

「いいよ。これ飲みな?生理痛に効くからさ。」

「うん……。」

そっと起き上がると、先生がカーテンの外から声を掛けてきた。

「ちょっと職員室行ってくるわね。
月村さんは体調落ち着くまで寝てていいわよ。
鳥羽さんは次の授業は出なさいね。」

「はーい!」

「先生、ありがとうございました。」

扉が閉まった事を確認すると、
薫がいつもより落ち着いた声でボクに問いかけた。

「…こんな時にアレなんだけど、
千影って性同一性障害…とか、持ってるの?」

その言葉は、
ボクも聞いた事があり少しドキッとした。

「……多分、違うと思う。ボクサー履いてるの
見たからそう思ったの?」

「う、うん。まぁ。自分の事男の子だと思ってるような節あるし…。」

薫は優しい。だから、なるべく気に触らない言葉を選んでくれてるのも分かる。
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