クールな無気力男子は、私だけに溺愛体質。
「とにかく、ゆるちゃんは学校の裏門に回って登校するから一緒に行くのは無しだ、早凪」
言い合う二人を制するように声を大にしながら、ビシッとそう言った明人さん。
「……っ、行くよゆる」
「おい、早凪!」
っ??
早凪くんは、突然私の手を掴むと立ち上がり、ダイニングを出て行く。
「ちょっと早凪くん!」
ダイニングを出て廊下で早凪くんを呼びとめると、彼の足が止まる。
「言ったでしょ、昨日。別に平気だよ。俺もゆるも同じ人間だし、環境がちょっと違うせいで一緒にいちゃいけないとかそんなの知らない」
「っ、でも……」
早凪くんには、わからないよ。
私と早凪くんの住む世界はすごく違うんだ。
壁は思ってるよりもずっと厚くて高い。
どうでもいいって言うけど、周りはきっとそうは思ってくれないよ。
「大丈夫だから」
ただでさえ昨日クラスの子に『地味』って言われたばかり。
早凪くんの隣を歩くなんて釣り合うわけがないのに。
でも、なぜか、早凪くんに『大丈夫』と言われると、少しだけ自然と心が落ち着いて、勇気が出る。
「……ありがとう」
彼の背中に小さくそう呟いて、私と早凪くんは学校へと向かった。