俺の彼女は、キスができない。
「あの子はね」
「はい」
「今、記憶が無いの」

は?
アイツが、記憶を無くした?
アイツの記憶が、消えた?

あり得ない、だろ。
無くすわけ、ない。
信じたく、ない。

俺には、どうしても受け止めることができなかった。
やっぱり、俺には。


ショックが、大きい。


でも、聞いてやらなきゃ。
アイツのために。
大事な、大切な、ゆっちゃんのために。

「起きるまでのことは、覚えてないわ。起きてからのことは、記憶を刻まれるみたいだけど」
「そうなんですね。記憶は、戻らないんですか?」
「それがねぇ。医師によると、分からないみたいで。いつ戻るかも、何も分からないらしいの。とりあえず、様子見だって言ってたわ」
「そうですか」

俺は、今にも泣きそうな顔だった。
それに気づいたのか、柚子のお母さんがハンカチを差し出してくれた。
「大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です」
柚子の家族に、迷惑はかけられない。
少し目をこすった後。
「じゃあ、俺のこと、覚えてないんですね。柚子は」
「そう、なるわね」

そのあと、沈黙が流れた。



俺は、どうしたら良い?
また、柚子と恋に落ちるか?
それとも、諦めるか?
誰か、教えてくれよ。
今の俺を、助けてくれ。
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