俺の彼女は、キスができない。
放課後。
私と悠莉は、公園のベンチに座っていた。

「じゃあ、話すよ。悠莉」
「うん」
悠莉は、真剣な顔。
ちゃんと聞いてくれるんだ。
嬉しい。

「私が病気にかかっていることは、悠莉には話したよね」
「そうね」
「私がキスできないのも、知ってるよね?」
「えぇ、知ってるわよ」

そして、次の言葉、勇気を出してと。
「私とゆっくん、キスしたの」
と言うと、悠莉は時が止まったように、動かなくなった。
「は………?」
いきなり、言われても分かんないか。
「えーとね。私、病院に運ばれたでしょ。それで、頭を強く打ったみたいで」
「打撲ってことよね」
「そうそう。でね、記憶が消えたの」
「マジか」
悠莉は、信じられないような顔をしている。
そう、だよね。
友達の記憶が消えるなんて、ショックだよね。
「ご、ごめん」
「いいわよ。続けて」
「うん」


全てを話し終わったあと。
私は、気が楽だった。
やっぱり、カミングアウトも悪くない。
気持ちも、軽い。
独りで溜め込むのは、良くないよね。
話せて良かったと、心から思った。
「おつかれ。疲れたでしょ。今日は、もう帰りなよ。また明日、聞いてあげるから」
「うん。じゃーね」
と通学カバンを手に取り歩く。
「バイバイ♪」
悠莉は、手を振ってくれた。
私も、手を振り返した。
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