俺の彼女は、キスができない。
「お前。いきなり、何言ってんの?ちょー怖いんですけど」
と隣にいた翔が、そう言った。
「なんでもねーよ」
俺は、そっぽを向く。
「あ。また、ゆっちゃんだろー?」
と調子にのって、そんなことを言う。
俺のなかで、何かがプツンと切れた。
「お前な!勝手に、ゆっちゃんって呼ぶな!!」
翔に向かって、叫ぶ。
俺以外に、ゆっちゃんなんて呼ぶやつ。この俺が、殴る!
「分かったから。落ち着けよ。な?」
「二度と呼ぶな!いいな!」
「はいはい。いいから、落ち着け」
そう言われた俺は、しょうがなく座り込んだ。


「で?お前ら、なんかあったの?」
「ついに、別れた」
と言うと、翔は一回止まってから、
「はぁぁぁ!?」
と怒鳴り声をあげた。
う、うるさいですよ。翔さん。
「お前らな!バカかっ!なんで別れた!答えろっ!」
と問い詰めてくる。
「あ、それは…。俺が、悪いんだよ。俺が、アイツの秘密を知ろうとしたから」
「柚希っ!お前、間違ってるよ!」
「あ、あぁ!そうだよ!俺が、悪いんだよ!」
「そうじゃなくてよ!お前が、分かってねーんだよ!」
「何をだよ!」
「柚子ちゃんは!嫌だったんじゃねーか!?お前、そんなことも分かってねーのかよ!」
俺は、ドキッとした。
アイツ、嫌だったのか?
「は……?」
「お前、ちゃんと相手のことも、考えろよな」
とだけ言って、翔は黙りこんだ。
相手の、気持ちか。
俺、ゆっちゃんの気持ち、全然考えてなかった。
どこまで、酷いんだろう。俺。
柚子が悪いわけじゃない。
悪いのは、俺なんだ。


俺が、ダメなんだ。



そうだ。
俺が、こんなヤツだったら、柚子は二度と帰ってこない。


ゆっちゃん。
帰ってこないんだな。
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