俺の彼女は、キスができない。
校外学習が終わり、皆は一息ついた様子だった。
校外学習から、数日後の帰り道。
誰もいない通学路を、中原くんと一緒に歩いていた。
「柚子って、可愛いよな」
いきなり、柚子と呼ばれ、体がピクリと反応する。
それに、可愛いなんて。
そんなこと、言わないでほしい。でも、どこかくすぐったい。
「なぁ、ゆっちゃんって、呼んでもいいか?そのほうが可愛いし、呼びやすいから」
その言葉を聞いて、咄嗟に出たのは。
「だ…め……」
足を止めて、そう言った。
我に返ったのは、言い終わったあとだった。
「あ、ごめん。その、柚子でいいよ。呼び捨てで構わないから」
と言って、歩き出す。
危なかった。なんとか、誤魔化せたってところかな。
すると、中原くんは。
「待ってよ。柚子」
と私の右手を掴んだ。
そして。

─チュ─

「んっ……っ………ぁ…」
リップ音を鳴らし、キスされた。
あ、違う。私の思うキスは、もっと心地の良いものだと思った。
だけど、中原くんとするキスは、どこかが違う。
キスをする相手がダメだと違和感があったのだ。なぜ、違和感があったのか。
理由は、すぐに分かった。
それは、私の相手は中原くんじゃない。ゆっくんだと。
ゆっくんじゃなきゃ、ダメだった。気づくの、遅すぎ。
─ぱっ─
またリップ音を鳴らし、唇を離した。
そして、私は覚悟をしたような顔で、こう言った。
「ごめん。中原くん。別れよ」
そう言い終わったあと、私は走った。
汗もかいて、息も切らして、走る。
柚希は掃除担当で、まだ教室にいるはず。
きっと教室に行けば、柚希に会える!
「ゆっくん!まだ諦めないからっ!」
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