俺の彼女は、キスができない。
第六章
翌日のお昼。
私とゆっくんは、屋上に来ていた。
「久しぶりだね。二人で、ここに来るなんて」
「そうだな」
柚希はフェンスにもたれている。私は、柚希の目の前にいた。
私が、話があると呼び出したのだ。
その話とは。
「ごめんね。呼び出して」
「いや、いいよ。大丈夫だから。んで、話って?」
「あ、その。ちゃんと、病気のことを話しておこうと思って。彼氏に隠し事とか、イヤだから」
と言うと、柚希は私に近づき、頭を撫でた。
「ゆっくん?」
「お前の気持ちも分かるけどな。無理に話さなくて、いいんだぞ?」
その言葉が嬉しかったはずだ。けれど、私が反応したのは、別のことだった。

「どうして、ゆっちゃんじゃないの?どうして、”お前”なの?ゆっくんは、嫌いなの?」
ゆっちゃん呼びじゃないことに、疑問を抱いたのだ。
私は、呼び方が違うことに、なぜかショックを受けた。不安にもなった。
「いや!別に、呼び方なんて」
「どうでもいいなんて、言わないで。私には、ゆっちゃんって言ってくれたのが、嬉しかったのに」
そう言いながら、俯く。制服のスカートを、強く握った。
涙が溢れそうだった。心が痛くて、辛くて。
でも。ゆっくんの言葉に、救われる。
「だから、違うよ。ただ呼ぶのが、恥ずかしくなった。それだけだよ」

「え…?」
今、なんて言ったの?
恥ずかしい?ゆっくんが?
驚きや嬉しみもあって、心がゴチャゴチャした。
「だから!恥ずかしいんだよ!またお前の傍にいられると思うと、何かが溢れて。涙が出てくる。お前が好きだから、辛いんだよ!」
ゆっくんが。ゆっくんが。あのゆっくんが、泣きそうな顔をしている。辛そうな顔をしている。私が好きだから、そんな顔をするんだよね。
私は黙って、柚希を抱きしめた。
「ゆっくん。大好き」
と言ったとたん。

─ドサッ─
ゆっくんに押し倒された。
「ゆっくん。クビキスして」
私は顔を赤くして、そう言った。

私とゆっくんの思い出の、クビキス。
それは、大切な宝物。
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