明日も明後日も。
振られた女:立川明

「まずは、俺を知ってみませんか?」


「お疲れ様でした」

そう言って、軽く頭を下げる。
スタッフルームにいた数人から、「おつかれー」という声が聞こえ、スタッフルームの扉を閉める。

ドアに寄りかかり、一息。
スマホを取り出し、メッセージアプリを開いて、ハッと我に返る。

……もう、『バイト終わったよ』なんて、送らないんだ。

送ったって、彼は迎えには来ない。

グッと唇を紡ぐ。
すると、スタッフルームから「ってかさー、明(あかり)さんってほんと無愛想だよねー」なんて、言葉が聞こえて手が止まった。

「まあ、仕事はできるけどねー。21の割には愛想がないよなー」
「でも、あれで彼氏いるんでしょ〜?」
「実は彼氏には、ベッタベッタに甘える対応だったり?」

スタッフルームから聞こえる笑い声に、自分の頭が真っ白になる。
今すぐここから逃げたいのに、足が動かない。顔が上がらない。

「明さん?」

自分の名前を呼ばれ、思わず顔を上げる。
そこには、一つ年下の真下悠人(ましたゆうと)くんが立っていた。不思議そうに、「どうかしたんすか?」と首を傾げる。

「え、あ……ううん、ごめん。悠人くん、あがり?」
「はい。今日は、この後すぐ帰って寝ます! 昨日、レポートで徹夜したんすよっ」

そうニッと笑う顔は、20らしい可愛い笑顔だ。
愛想が良い、というのはこういう事だろう。

「明さん、お疲れさんです」
「うん、お疲れ様」

そう言って、私は少し早足でその場を離れた。


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