明日も明後日も。
公園のベンチに、どのくらい座っていただろう。
10月の夜は、風が気持ちい。
9月までの暑さが嘘のように、涼しくて。私の頭も、冷えていく。
……こんなところにいても、隆(たかし)は来ない。
帰ろう。
そう思って立ち上がった時、視界に映ったのは公園の前にあるコンビニ。
少し考えて、私は足を動かした。
どうやら私の頭は、まだ冷えていないらしい。
手のひらサイズの、長方形の箱。
こんなのでも、思い出すのは彼だ。
『ねえ隆、タバコって美味しいの?』
『いや、べつに?』
『え、じゃあなんで吸うの?』
『なんでだろうな。なんかもう、自然に? 癖?』
『ふーん?』
『あ』
『なに?』
『強いて言うなら、明に俺の匂いを残すため?』
『……ばかじゃん』
吸うなんて、思わなかったな。
『明はタバコ、吸った事ないの?』
『ないよ。吸いたいって思ったことはあるけど』
『え、あんの?』
『なんか、むしゃくしゃしてる時』
『明が? むしゃくしゃするの? ははっ、超レアじゃん』
『……そう?』
『明がタバコを吸うのは、一生無さそうだな』
そう笑って言った、隆の顔が過ぎる。
私も思ってたよ。
タバコなんて、一生吸わないって。
さっきまで座っていたベンチに座って、タバコの箱を開ける。
一本取り出し、一緒に買ったライターで火をつけた。
一気に肺まで吸って、ゆっくり吐く。
「ごほっ、ごほっ」
ああ、むせるってこういうことか。
「……あー、まっず。にっが。なにこれ」
だんだん頭が冷えていく。
その代わり、だんだんと……目頭が熱くなる。
私の頬に、涙が流れ始めた。