だから何ですか?Ⅲ
「っ・・・」
これは・・・デジャブ。
俺にとっては嬉しい事この上ないデジャブ。
自分が視線を向けていたのと真逆の方から腕を掴まれ強引に引かれて、その力に驚くことはなくむしろ口の端がにやりと上がった。
引かれて動き出した足は会社入り口から遠ざかり、もっと言えば人の目から遠ざかって建物の影に連れ込まれる。
すでに視界に収めていた姿は当然の事ながら不満を訴える亜豆の後ろ姿で、コツコツと響く靴音でさえ不満を訴える音に聞こえて笑えてしまう。
一応、引かれたままに身を任せて歩いていたけれど、建物の影に連れ込まれた途端にこちらから奇襲とばかり、
「っ___・・・ちょっ!!」
「おはよう」
亜豆が振り返るより早く自分の腕を背後から首に巻き付け抱き寄せて、チュッと首筋に口づければさすがに驚愕全開の顔を見せてくれる。
そのままサラリと何食わぬ顔で『おはよう』なんて声を響かせれば、俺の腕を振りほどいてさらにはトンっと突き放す様に押し返された。
勿論想定の範囲内であったからそんな衝撃に驚きも怯みもせずにクスクスと笑ってしまう俺なんだけども。
想定外だったらしい目の前のお嬢さんは腕を組んで仁王立ちの珍しくしかめっ面でこちらを見つめにきている。