だから何ですか?Ⅲ
奇しくも自分もその少数の中の一人。
相変わらず・・・・・気色が悪い。
見ているだけで気分がどんどん沈み込んで、あの頃の澱んだ感情がじりじりと背後から迫ってくるような感覚さえ覚える。
そんな感情を振り切るように一息つくと近くにあった飲み物を口に流しこんでゆっくりと身を動かす。
会場を一周、視線をまんべんなく走らせるとようやく入り口に向かってヒールを響かせ歩きだした。
海音君には悪いけれど本当に無理だ。
せっかく穏やかに過ごしている現在(いま)に過去の影を持ちこみたくない。
現在が幸せであればあるほど私は隙だらけで、壊される宝物が多すぎる。
それを守るには身を隠すのが今は一番の防御であるだろう。
会場を走って抜けるでもなく多くの人間の間を縫って歩んで進む。
あと少し、あと数歩で廊下へと繋がる扉にたどり着く。
そんな安堵に容赦なく、情もなく、音も立てずに迫っているのが影というモノだろう。
トンっと柔らかくも強固な力が肩に触れて、触れられた瞬間の言いようのない嫌悪感でその事態を理解してしまう。
追い打ちをかけるように響いたのは
「亜豆?」
私だと分かっているくせに。
分かっているから『逃がさない』とばかりに追いかけ、どこか高揚とした声で私の名を呼んだ癖に。