だから何ですか?Ⅲ




その勢いのまま、今度はあからさまに強いのにどこまでも優しい力に引っ張られ、自分が向かっていた扉の向こうへと連れ出される。


誰もいない。


開けたロビーは賑やかな会場とは真逆に心地の良い静寂に満ちていたらしい。


なんて息がしやすい。


背後から響く会場内の雑音も扉が閉まる速度で小さくなっていき、完全に無音にはならずとも自分を苛む効果は皆無の微々たる騒音に成りえた瞬間。



「馬鹿が、」



そんな罵声を響かされるのに体に与えられたのはどこまでもいたわりと優しさに満ちている温もりと感触。


振り返った姿がまともにその全貌を私の目に映させずに抱きしめにきて、そんな行動に驚きは一瞬。


一瞬後には自ら背中に手をまわし、さすがに化粧を気にして遠慮がちに胸に顔を埋めた。



「雨月君・・・」


「何でここに来た。よりにもよってあいつの関わる催しに」


「・・・仕事だったんだよ」


「馬鹿が、自分を壊す恐れのある仕事なんか突っぱねろ。海音なら話も通じるだろうが」


「海音君にはもうこれ以上ないくらいに大切にしてもらってる。良くしてもらってる。なのにこれ以上の特別扱いをして欲しいとは思わないよ」


「一番特別扱いを活用する場面だろ」


「代わりに雨月君がこうして特別扱いしてくれてるからいいよ」



フフッと笑って見上げれば不機嫌に顔をしかめるくせに優しい綺麗な緑が私を映しこむ。


所詮、表情はあてにならない。


感情を偽らず見せるのはいつだってその目の揺らぎだと思う。


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