だから何ですか?Ⅲ
全部分かっていたのだ。
彼の特別である事はどこまでも居心地がよく不器用な優しさを独占出来ている時間は私にとっても特別であった。
それでも私が彼に恋心を抱かなかったのは、
「雨月君は私の恋心を芽吹く前から潰してたんだよね」
「・・・・・」
「恋をさせてくれなかった。恋を抱く前に恋を抱けない相手なんだと私の中に印象付けさせたんだよね」
「・・・亜豆」
「雨月君・・・私の事が好きでしょう?」
「・・・・・・・っ」
言葉より早く、これが答えだと言わんばかりにきつく強く抱きしめに来た力と匂いに何故だか泣きたくなった。
悲観の感情からではなく、ひたすらに温かな彼の秘めた恋心への歓喜。
深く強く、心から想われているからこその私と彼の距離。
いや、この距離こそが彼の愛情がどこまでも強いのだという証明。
愛されてるな。
そうジワリと感じて、いつだってその感覚に甘えて縋りつきたくなる。
実際、堪え切れなかった手が彼の背でスーツを掴むように皺を広げて、化粧の懸念など忘れて抱きしめられたまま顔を胸に埋めた。
そんな私のこめかみに彼の唇が触れて息がかかり、その熱にほんの僅か驚いて顔を上げれば至近距離で彼の緑に自分が捕まった。