だから何ですか?Ⅲ
そんな瞬間にふわりと鼻孔を擽ったのはシャンプーの匂いで、さっきまで一緒に風呂に入っていた亜豆の髪から香ったものだろう。
素肌に俺のシャツ一枚。
男としては実に愛らしく見える彼女の装いの一つであろう。
そんな姿をやや上から眺め見惚れていれば『またですか?』なんて冗談交じりの呆れ声を返されて。
「もうこの部屋で食われてない場所はないってくらいに食いつかれてる気がするんですが?・・・ついさっきはお風呂でも」
「まぁ・・・確かに。性欲馬鹿になったかねぇ」
亜豆の言葉は大げさでもなく本当にそう言えそうな程。
感情任せの第一戦が一番長くベッドで濃密に。
その後も休息を挟んでは欲情のままにキッチンでも風呂でもこのソファの上でも。
呆れる程の時間と回数を別れていた間の分を補う様に扇情的な行為に費やしている現状。
さすがに本気で休息を挟めるべきだろうと苦笑いで巻きつけていた腕を離し、ソファの背もたれを跨ぐと亜豆の隣に身を置きミネラルウォーターを差し出した。
それを柔らかな笑みで受け取りゴクリゴクリと喉を潤す姿を横目、テーブルの上に置いてあった煙草に手を伸ばすと口に咥える。
そのままの流れ、煙草と一緒に置いてあった懐かしいジッポを手にフッと口元に弧を描くと煙草に火を着けた。