だから何ですか?Ⅲ
カチンッと懐かしくも馴染んだ音に安堵の一服。
不思議だな。
煙草の銘柄は変わらず同じであるというのに、ようやく求めていた味や香りを取り戻したような。
そんな感傷に浸って紫煙を漂わせていたけれど、不意に横からの視線に気が付き小さく笑いながらそちらに振り返る。
そうして捉えるのはフフッと満足そうに微笑む亜豆の姿だ。
「なんだよ?」
「いえ・・・やっぱりそのジッポは伊万里さんの手にある方がいいなぁと」
「俺もなんか落ち着く」
「長い間借りパクしていてすみませんでした」
「借りパク!・・あはは。でも・・・返す気あったんだろ?・・・わざわざ三ケ月に取り返しに行ったくらいだし」
「それは勿論。・・・ただ、ちょっとタイミングを見失ってましたけどね。でも、こーんな溺愛されると分かってたならもっと早く返すべきでした」
『勿体ない事した』
そんな言葉を補足して、クスクスと笑う亜豆がミネラルウォーターのボトルをテーブルに置くのと入れ替わり。
新しい煙草を一本その指に挟み、スッと身を動かすと俺の体の上に跨って向かい合わせで座ってくる。
すでに馴染みきった重みはひたすらに心地よく、肩の上に乗る腕の重みも然り。
やや俺を見下ろす形で覗き込んでくる亜豆の口には先程の煙草が咥えられていて、『んっ』と軽く声を交えて突きだしてくる事にはクスリ。