だから何ですか?Ⅲ
「ではでは、存分に【亜豆さん】のドレス姿に未来予想図を抱いて触発されていらっしゃい」
「その言い方な」
「【凛生さん】にもよろしく」
最後の最後まで悪戯な言葉を仕掛けて手を振る小田に苦笑い。
それでも最後まで楽しい歓談時間だったと満足に口の端を上げてみせ、軽く手を上げると静かなオフィスを抜けて式場に向かった。
さすがに会社社長の結婚式となると規模がデカくて招かれる人数の多い事。
有名ホテルの一番大きな会場に円卓がいくつあるのか。
それでもまだ宴席の時間には及ばぬ早めの時間。
当然会場内に来客の姿はなく、受付で芳名しているのもチャペル式から参加する限られた参列者であるのだろう。
自分もそこに名を連ね祝儀を渡すとすぐに向かったのは新郎新婦の控室だ。
そこへ来てくれと亜豆からの申し出で、式前に主役に会うのはどうなんだ?と思いつつも足を向けた。
ブライズルームと書かれ、菱塚・亜豆様の名を確認すると白い扉をノックする。
すぐに『はい』という声が響き中から扉を開いてくれたのは係の女性だろう。
「あ、えっと、伊万里って言ってもらえれば、」
「和、入れよ」
一応名を名乗ればすぐに後ろから姿を見せたのはシルバーグレーのタキシードに身を包んだ主役の海音だ。