だから何ですか?Ⅲ
双子の姉が少し前から海音のマンションに移り住んでいたのは聞いて知っていた。
飼っていたあの大きなシベリアンハスキーも。
やっぱり『寂しい』と零していた亜豆は頻繁に俺の家に泊まるようになっていたのだ。
それなのに・・・。
やっぱり、他の奴の存在なんてまるで感じなかったのに。
いや、そりゃ浮気してたってわけじゃなければ分かる筈もないか。
そんな事を思いながらあまり通った記憶のない階段をのぼりつめる。
時間も気にして靴音は響かせないように。
そうして玄関前に立ちチャイムを押そうとするもやはり躊躇ってしまう。
躊躇う事もないか・・・今更印象の良し悪しも何もない。
そうして響かせた非常識な時間の来訪音は虚しく室内で反響して消えていく。
動きを見せる気配も音もなく、再度押してみても変わりのない虚しさが増す。
そんな虚しさの中に小さく抱く焦燥感。
答えは2つあって、そうであってほしいと思うのは・・・【帰っていない】という不在故の沈黙。
待ってみようか・・・。
そうは思えど時間も時間だ。
すでに日付は変わって数時間もすれば出勤時刻となる。
そうすれば当たり前のように刷り込まれた感覚で出勤して社会人を全うするんだ。
きっと・・・亜豆も。