だから何ですか?Ⅲ
当たり前の様に出社すれば当たり前の一日が始まるわけじゃなかった。
『さようなら』
その言葉は俺との関係だけの清算では留まらず。
何の前触れもなく、本人の口からは何も理由は語られず、海音が出社した時にはデスクの上に封筒が置かれ、表書きには達筆で流麗な文字で辞表と書かれていた。
一通は型通りの辞表の文面で、もう一通には親しい関係としての報告と謝罪と言うのか。
【勝手に辞めてごめんなさい。しばらく音信不通になると思うけれど心配しないで。凛生】
どこまでも亜豆らしい簡潔すぎる説明は俺に向けた決別同様に苦みともどかしさばかりを波紋の様に広げる。
文面のままに音信不通。
連絡も一切取れずどこに行ったのかもわからない。
本人からの手紙がある以上警察沙汰にもならず、それでもと海音が探偵などに依頼するも良い捜索結果は報告されず一ヵ月半。
その一ヵ月半の間、ずっと俺の心があの夜に置き去りだ。