星空電車、恋電車
「千夏、すぐに始まるだろうから俺たちも準備しよう」

「はい」頷いて天井を見上げる。
ドームのど真ん中が一番見やすいのかな。

「こっち」
樹先輩の声に従って付いていったのはやはりドームの中央付近。

「ここにシートを広げて寝ころぶといいよ」

言われるがままに持っていたシートを広げると、ちょうど人ひとりが寝転がるにはちょうどいい大きさだった。
厚手の生地が肌に優しい。

ただ寝転がるのはちょっと抵抗がある。
お行儀悪いというか隣に樹先輩がいて緊張するとかーーーまあいろいろ。

シートに座って躊躇っていると「はい」とポンっと何かを渡された。

それはふわふわの大きな抱き枕のようなピンク色をした象のぬいぐるみ。いつの間に準備されていたんだろう。

「抱いても枕にしてもお腹の上に乗せるのでもいいよ。好きに使って。ここはひざ掛けとかクッションも準備しているんだよ。ただ寝転がるだけより落ち着くでしょ」

ほんと、その通り。ふわふわの象をぎゅっと抱きしめたら肩の力が抜けていくような気がした。

「上映はじめるよー」という井本さんの大声と同時に扉が閉められ、「ありがとうございます」という樹先輩に向けた私の声はかき消されてしまった。

「消灯」
「OK」

樹先輩の声に反応して広間の電気が消され一瞬にしてドームの中には深い闇が広がる。

ピアノとバイオリンの二重奏が始まり、少しづつ闇に目が慣れていくとドームの天井に星が瞬いているのがわかる。

やがて星々がはっきり見えるようになると、ナレーションが始まった。



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