春の魔法
補習を終え、俺は1人で歩いていた。外は、すっかり暗くなっている。美影と氷翠さんには、先に帰ってもらった。1人で帰りたい気分だったから。
俺の教室に入ると、1人の少女が隅の方で泣いている。
「おい、帰らないのか?」
その少女に近寄って声をかけると、少女は顔を上げた。泣いていたのは、瑠梨さんだった。
「瑠梨さん…どうして泣いているんだ!?」
瑠梨さんは、困った顔をしながら微笑んだ。その笑顔は、俺の胸を締め付ける。
「……嫌だ…帰りたくないよ!!」
弱い声で言った瑠梨さんは、俺を押しのけるようにして教室を飛び出した。
俺は、疑問を抱きながら瑠梨さんを走って追いかけた。瑠梨さんとの距離はどんどん縮まっていく。そして、俺は瑠梨さんの腕を掴んだ。
「離してよ!!」
「離さない」
「なんで!!」
瑠梨さんは、俺の手を解こうと暴れている。
瑠梨さんに「…何で泣いていたんだ?」と聞いた瞬間、瑠梨さんの動きが止まった。まるで、石のように。
「……帰りたくないから」
「何でだ?」
「何でも良いでしょ。離してよ…お願いだから」
瑠梨さんは目に涙を浮かべながら、俺を見つめる。俺は、瑠梨さんの腕を掴んでいた手を離した。
「俺は…美影みたいに相談に乗る力は無い。でもな、話だけは聴いてやる。いつでも俺の所に来い!」
俺に背中を向けた瑠梨さんは、俺の方を向きながら、「ありがとう」と微笑んだ。
瑠梨さんは、魔法を使い、その場から姿を消した。完全に気配が消えている。