春の魔法



美影に、あの話をしてから数日が経った。俺は、誰も居ない教室で、ノートに落書きをしていた。

「…琥白くん」

教室に、誰かの声が響く。顔を上げると、瑠梨さんが俺の目の前に立っていた。

「瑠梨さん?どうしたんだ」

「…私、氷翠と別れたくなかったんだ」

「どう言うことだ?」

俺は、瑠梨さんの言葉に首を傾げる。

「私が氷翠に『嫌い』って言った時、苦しかった。氷翠のことが好きだから…」

瑠梨さんは、悲しそうに笑った。瑠梨さんの目には、絶望しか写っていない。

「…これも氷翠を守るためなんだよ。私、成績が悪くって…『瑠梨の成績が悪いのは、氷翠のせいに違いない…』『そうだ。氷翠ちゃんと関わらなくなれば、成績が良くなるはずよね』そんな両親の会話を聞いてしまった」

「ひどいな…瑠梨さんの親」

「でしょ。その日、両親に言ったんだ。『じゃあ、私…氷翠と絶縁すれば良いんだね?』って。平静を装うのが辛かったな…このまま親友を続けてたら……と考えてたらゾッとした」

瑠梨さんは、話をしながら泣いていた。余程、苦しかったのだろう。

「そう言ったら、『ありがとう!』と言って笑っていたよ。私の両親、嬉しかったんだろうね」

「瑠梨さん、話してくれてありがとな」

俺は、瑠梨さんの頭を撫でた。瑠梨さんは、横に首を振る。

「こちらこそありがとう…話を聴いてくれて」

「美影にも話した方が良いか?」

「…美影くんに?」

「また、氷翠と友達になりたいんだろ?」

「あ、うん…」

「…じゃあ帰るか。瑠梨さん、行くぞ」

俺は、荷物をカバンに入れ、肩にかける。瑠梨さんは、首を傾げた。

「一緒に帰らないか?」

俺は、瑠梨さんに微笑みかけた。瑠梨さんは、俺の顔を見つめ、「うん」と首を縦に振る。
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