姫は王となる。
「"心"をまだ手に入れてないからですよ」
「!」
心ー…
「人質に取られている今、お妃様の心中はこの国と、娘である花蘭女王様のことばかりでしょう。それが、北国の王には気に入らないのです」
「…」
カイトの言っていることが理解できるようで、理解できない。
「だから、北国はこの国を攻めるのです。この国を消せば、お妃様の帰る場所がなくなる。そして娘である花蘭女王様を殺害すれば、お妃様の心中から消える。北国の本来の目的は、それでしょう」
「…っ」
なんて…身勝手なー…
「それが、異常な執着心なのです。私には、理解できませんけど」
私にも理解できない…
けど、なぜ風はこのことを黙っていたのだ?
「…風は、お妃様の娘である花蘭様には、言いたくないと言っておりました」
黙っていた老婆が、震える声で話をし始めた。
「自分の母親が他の男から異常な執着心を持たれているなど、気分が悪くなる話であると…だから、風は黙っていたのです」
老婆は床に手をつき、頭を下げている。
「そして、この国の弱点は自分であるとも言っていました。北国はこの国と王様を狙う前に、自分を狙ってくるだろうと…」
ドクン!
土下座している老婆の肩が震えている。
「風は全てを知っていながら、国境に向かいました。北国の王がこの国に入る前に、自ら北国の王と刺し違える覚悟で行かれました!!」
ドクン!!
刺し…違えるー…
「ですから…王様……どうか…どうか風をお許し下さい…」
手を床についている老婆の手元は、涙で濡れている。
「私にはお二人とも可愛い娘と息子のようなものでございます…どうか…どうか…」
"お助け下さい"
老婆は最後までは言わなかったが、そう聞こえた。