姫は王となる。
「王様…」
頭を下げていた老婆が、涙で濡れた顔で見上げてきた。
老婆が涙を流している姿など、生まれてから一度も見たことがなかった。
「…老婆よ」
自分の母親の涙を見るのと同じぐらい、ショックだった。
「私が留守の間、この城を守れ」
「…はい、王様」
老婆は再び、頭を下げた。
「必ず、皆を連れて帰ってくる。お母様も…風も…」
そう言うと、扉に向かって歩き出す。
コツコツ…
「王様!!」
コツ…
老婆の呼び止める声に、足が止まった。
「ご無事のお帰りを…この城は私、老婆が必ずお守り致します」
震える声で言った老婆の言葉。
「あぁ」
その言葉に短く返事をすると、応接室から出た。